瞳から消えたもの 

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 次の日の朝、野々宮重則の恫喝から1日が始まった。 「お前、不倫相手の男を追い回すなんて、みっともないマネをして、男の気を引くのに父親に恥をかかせたな! もう、あの男に会う事は許さん」  と、果歩の頬を叩いた。  今まで、娘を甘やかして来たのに面子を潰された事は、許し難いことだったようだ。  果歩を知り合いの精神科に医療保護入院をさせるのに、もっと穏便に事を運ぶ予定だったのに半ば引きずるように、無理矢理、放り込んだ形になってしまった。  入院当初、だいぶ憤っていた果歩は、担当医師が投薬治療を始めると徐々に落ち着いを見せるようになった。    様子を見に面会に行くと、猫のように輝いて瞳は、暗い影を落とし、ぼんやりと窓の外を眺めているかと思えば、急にキッと、つり上がり怒りの炎を燃やし睨み付ける。  その時の感情で、不安定に揺れていた。  それでも、徐々に落ち着きをみせ、とうとう誓約書のサインまでこぎ着ける事が出来て、菅生さんに渡す事が出来た。  その菅生さんに果歩との今後について尋ねられ、離婚の意思を伝えた。  そして、僅か数日後、果歩が病院を抜け出し事件が起こる。    婦人科から電話を受けたあの日に、俺と果歩の結婚生活は終わっていた。  親が作った借金の返済も終わり、自分から離婚を言い出せる。  それでも、果歩と結婚した意味を探すように緑原総合病院の立て直しに尽力した。    果歩との結婚は、3か月という短いもので、5年という長いものでもあった。    
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