2928人が本棚に入れています
本棚に追加
/409ページ
一瞬、バスルームのドアを開けたら「キャー!」
というシチュエーションを期待してしまった。けれど、そんな事は起こらなかった。
バカみたいだなと思いながら、シャワーを浴びようとカランに手をかけた。
その時、手に触れるモノを見つける。
黒いヘアゴムだ。
引っ越しをしてからこの家に誰かを上げた事はない。
あれは夢じゃなかったのか⁉
じゃあ、誰だと言うのだろう。
どこまでが夢で、どこまでが現実だったのか……。
落ち着かない気持ちで体を洗い、バスタオルで体を拭いた後、脱衣室の洗面台の鏡の自分と向かい合う。
鏡に映る自分の体には、キスマークやひっかき傷などは見られない。
二日酔いの倦怠感が多少あるだけだ。
艶めかしい出来事は、夢だったのではないだろうか?
でも、それでは、ここにある黒いヘアゴムの説明がつかない。
誰と、どこまでしてしまったんだろう。
グルグルと無限ループに迷いこんだ思考に陥ってしまった。
とはいえ、平日の朝、出勤の時間が刻々と迫っている。
自分の悩みで、仕事を休むわけにはいかない。
洗面台の引き出しを開け、ドライヤーを取り出す。
ドライヤーのコードが、いつもと違う巻き方で収納されている。
やっぱり、誰かが、シャワーを使ったんだ。
最初のコメントを投稿しよう!