内緒だけど

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内緒だけど

 蒔田医院の医院長室は、医院長室というより、事務室と言った感じで、愛想の無い平机、病院の待合室にあるのと変わらない長椅子。壁面には、専門の医学書がビッチリと並んでいる。  虚勢を張らない堅実な伯父の人柄を表すような部屋。 「医院長、お呼びですか?」 「たまには、モテている甥っ子と噂話をツマミに飯でも食おうと思ってな」  伯父は、ニンマリ笑うと椅子を勧める。  長椅子の前のローテーブルの上には、出前で取ったどんぶりとざるそばのセットが2つ並んでいて、伯父と向かいあわせに腰を下ろした。  耳ざといな、と思いながら伯父に言う。 「ぜんぜん、モテてなんていませんよ」  現に失恋したばかりだし……。 「ま、食べてくれ。聞く所によると看護師の噂だとモテ男と評判だとか、今日も看護師が、ひとり振られたらしいな」    岩田さんが何やら言い淀んだ事を言っているのだと思ったけど、あれは、告白じゃないから俺が振った話になるのは、間違いだと思う。  面倒だなと思いつつ、遠慮なく「いただきます」と言ってどんぶりの蓋を開けた。中身は、かつ丼だ。 「はぁ? 振られこそすれ、振ったりしていません。何かの間違いではないですか?」 「じゃあ、付き合っている人はいるのか?」 「そんな人いませんよ」 「お見合いでもするか? お前なら引く手あまただ」 「医者の肩書に釣られてくるような人は勘弁願いたいですね。この医院の跡継ぎだなんて知られたら、ハイエナにたかられてしまいます。それに政略結婚もゴメンです」  政略結婚の悲劇を目の当たりにしたばかりだ。 「そのうち、伯父さんにも紹介できる人を探しますよ。だから、この医院の跡継ぎだというのは、誰にも言わないでくださいね」  正直、今は、昨晩の事を解決しないと……。  
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