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セクシャリティについては偏見はないが、自分はノーマルだと思う。同性に対して性的な感情を持った事はない。
そんな自分が、目の前のイケメンと、どうこうなったとは思えない。
でも、記憶がない以上何も言えずに、気持ちばかりが焦る。
イケメンの母親である、おばちゃんの前で「昨晩、俺と何かありましたか?」だなんて、とんでもない事を聞くわけにもいかない。
「昨日は、ご迷惑をお掛けしたようで、送って頂いた記憶もあやふやで申し訳ない」
と、頭を下げた。
顔を上げると歩夢君が首を傾げて心配そうに言う。
「記憶飛んでいたんですか? 足どりもわりとしっかりしていて、マンションのエントランスまで送って後は大丈夫だって、セキュリティーキー開けて帰って行ったから、そんな事になっているとは思わなかったです」
歩夢君とは、マンションのエントランスで別れたのか……。
まさかのBL展開回避にホッとする。
でも、結局、黒いヘアゴムの持ち主はわからないままだ。
「センセ、お夕飯召し上がって行って下さるんでしょう? 歩夢ごめんね。注文入ったからよろしく」
おばちゃんの声に頷き、歩夢君は会釈をして暖簾の奥に戻って行った。
お刺身定食を注文して、料理が運ばれてくるまでの間も、昨晩、歩夢君に送ってもらった後のエントランスから部屋までのわずかな距離の間に何が起きたのか、考えたが思い出せずにいた。
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