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午前中の診察時間も終わり、うーんと椅子の上で伸びをする。
今日のお昼ご飯は、Café des Arcs にでも行くか。と、立ち上がり、ロッカールームに足を進めた。
ロッカーに白衣を脱いで、通用口から出て通りを歩く。
徒歩2分ぐらいの所にあるCafé des Arcs は、セミオープンのカフェで新しく出来たタワーマンションの1階のカドにある。
弓型のアーチをくぐり店内に入ると、ダークブラウンの木目調の家具。センス良く置かれたグリーン、窓も大きく、マンションの提供敷地内に植えられた木々も良い借景となって落ち着いた雰囲気。贅沢な空間だ。
父方の甥っ子の三崎和成が経営している店でもある。
料理の美味しさもあるが、従業員がみんなイケメンで、OLや主婦たちでいつも賑わっているが、行けばいつも見晴らしの良い席に案内しくれる。
「三崎先生!」
と、明るい笑顔の2人がいつもの席で手を振っている。
「お疲れさま、今日、新しい看護師さんが入ったんだよ」
腰を下ろして他愛のない話をする。
「三崎先生、その人、美人ですか?」
小松さんが、目を輝かせて聞いてくる。それを美緒さんがクスクス笑う。
「里美たら……」
「うん、綺麗な人だったよ」
「じゃ、私と三崎先生はライバルになるかもですね」
「えっ? 戦友じゃなかったの?」
「一緒に戦った仲ですけど、それと恋とは別モノです。それにチャンスの神様は、前髪しかないから来た時に掴まないと後からは掴めないんです。グズグズと迷っている間にチャンスの神様は遠ざかちゃうんですよ」
「ギリシャ神話のカイロスの話だよね。前髪は長いけど後頭部が禿げた美少年って想像出来なくて、可笑しいよね」
と言って美緒さんが笑っている。
まだ、胸が痛むけど、今度、誰かを好きになったら、アグレッシブにチャンスの神様の前髪を掴みに行くよ。
それとも、黒いヘアゴムの件でも、すでにチャンスの神様の前髪を掴み損ねてしまったのだろうか?
真面目でいい人の評価をひっくり返すような出来事が、この先起こるかもしれない。
『あの人、とうとうやらかしちゃったよね』とか、言われたりね。
【終わり】
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