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「世界が初めにできたときの話を聞かせて下さい」  フェリスがコーヒーカップを洗いながらきいた。 「初代天帝が世界を創ったんだよ。世界ができる前はカオスだったんだ。カオスの中から天帝が生まれた。そして彼は綺麗なものを上へ、汚いものを下へ分けたんだよ」 「天界が綺麗で、人間界が中間で、魔界が汚いってことですか?」 「綺麗とか汚いとかの観念が僕たちと違うかも知れないね。魔界は毒気が強くて人間は即死してしまうような環境らしい」 「魔族は平気なんですか?」 「神族も魔族も人間と躰の構成要素が違うからね。アストラル体という物質でできている。物質ではないかな。アストラル体は霊体そのものだから。魔族や神族は階級がある。下級魔族よりは精霊が上で、中級くらいから魔族の方が精霊より霊的に上になるね。だから現在の魔法で主流な精霊魔法で退治できるのは、中級魔族までかな。でも上級魔族は人間界ではあまりお目にかからないかな。魔族は、超上級というのがいるらしくて、僕も死ぬまでに一度見てみたいなあ。超上級魔族ってどんなのかなあ」 「神話の話の続きは?」 「ああ、天帝は綺麗なものの中から妻を創ったんだ」 「天界から生まれた妻が人間好きで、カオスから生まれた天帝が天界好き」 「いや、代々の天帝の妻が人間好きだったかは不明だよ。今の前の世界だからね。アーシアが人間好きなんだよ」 「アーシアは誰から生まれて来たんですかね」 「後の天帝や妻は神族の自分の両親から生まれているよ」 「普通ですね」 「神族は遺伝の仕方も人間とは違うみたいだね。どう違うのかはわからない。天界も魔界も謎だらけだよ」 「さっきちょっと輪廻っぽい話もでましたけど」 「人間は人間界と天界をぐるぐる回っているんだよ」 「動物や植物に生まれることもあるんですか」 「あるよ。精霊になることもある。精霊が神族になることもある。植物は精霊と同じ扱いだよ。動物、人間、精霊(植物)、神族の順でレベルアップしていくんだ」 「神族や魔族の寿命はあるんですかね」 「あるみたいだけど、はっきりわからない」 「で、今までの話はアーシア教の中での話ですね」 「そうだよ。レダ教の話もしようか? 比較検討する? アーシア教と似ているところも多いんだけど」 「ちょっと聞いてみたいけど、今日はもうお腹いっぱいです。ありがとうございました」  あたしはずっと横で聞いていた。モルジュ教授の話は面白いけど、しんどい。結構エネルギーが必要だ。ちょっとした戦いという感じだ。  フェリスはたぶんアーシアの秘術に必要だからこうして来ているのだろう。モルジュ教授のところへ来る前にはすこし心構えが必要だ。  昼はノリスケさんの屋台へ行ってパニーニで済ませた。具の種類はとても豊富なんだけど、あたし達はいつもトマトとチーズのパニーニだ。一番安いし、野菜も摂れる。ひとつ、130アルフする。それをいつも100アルフにまけてくれる。結構大きなパニーニなのでひとつで満足だ。  午後はお皿を拭いて、おばあさんとお茶して、店番して、いつもどおりに5時にはバイトが終わった。フェリスが帰ってくるのは、いつも7時くらい。  だから、あたしは森へ向かった。  案の定、二人は森にいた。今日は二人で剣を構えて睨み合っていた。いつもと違う雰囲気に声をかけられなくて、そばの木に隠れて見ていた。  ドガガガガガ!  二人は突然切り結び始めた。切り結ぶなんてものじゃない。ほとんど太刀筋が見えない。人間がこんな風に動けるなんて信じられない。二人とも常人ばなれした剣捌き(けんさばき)をしている。達人の腕前だ。そして二人の力が瀬戸際で拮抗している。 「うわー」  あたしが小さくつぶやくとシャーさんが目だけで一瞬こっちを見た。  ぐさっ。  フェリスの剣がシャーさんの胸に深々と刺さった。 「キャー!」 「ディアちゃん!」  フェリスがあたしに気づいた。  シャーさんは胸に剣を突き立てたまま、すたすたとこっちに歩いて来た。血は一滴もでていない。剣を抜いたら、どばっ! とくるのかな。 「シャー、手を抜かないでよね」  フェリスは息切れしている。それに足元もふらついている。 「痛くないんですか」  あたしはシャーさんの方が気になった。シャーさんは唐突に胸から剣を抜いた。やっぱり血は出なかった。剣は本物だった。胸の切れ目から少し銀の炎がちろちろと見えて、すぐ傷口は塞がってしまった。同時に服も修復されている。 「シャーさんが不死身っていうのは本当なの?」 「よく知っているではないか」  シャーさんの口調って、ちょっと、じいさんぽい。  全身から力が抜けた。座り込んでしまった。  フェリスはその場に寝転がって休んでいる。大の字になっていった。 「シャー、今日はここまでね」 「わかった」  シャーさんは全く疲れているように見えない。涼しい顔をしている。あたしと目が合うと反射的に微笑んだ。あたしはこれに弱い。
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