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 事件はその夜に起こった。  フェリスとあたしが夕食を摂り、寛いでいたときだ。誰かが激しくドアをノックした。 「はい?」  フェリスがドアを開けると二人の人が飛び込んで来た。ロゴとルタ王子だった。 「フェリエール! 追われている! かくまってくれ!」 「わかりました」  ロゴと王子をベッドの向こうにしゃがませて、手の甲を二人の額にスタンプした。フェリスの手の甲には、魔法陣がうかんでいて、二人の額に魔法陣がスタンプされた。すると、二人の姿が消えた。  バン!  いきなりドアが開いて、役人が5,6人どやどや入ってきた。 「失礼。逃亡者を追っている。調べさせてもらう」  役人たちは、トイレとシャワールームを開けて確認したり、マットをはがしてみたり、ベッドの下を覗いて見たり、窓から外を見たり、流しの下の物やタンスの中の物をすべて出したりしたけど、何も見つからなかったみたいだ。 「おかしい。隠れる所はないはずなのに」 「確かにここへ逃げ込んだのか?」  役人たちは挨拶もそこそこに帰っていった。 「なぜ、王子が役人に追われているの?」 「……」  あたしとフェリスは二人に事情を訊くことにした。 「道行き、だ」 「ミチユキ? って、何?」 「ディアちゃん。駆け落ちのことだよ」 「えーっ!」 「しー」  王子があたしの方を不思議そうに見ている。でも、ひとりでうなずいている。賢い王子だから、サルの正体にも気づいたかもしれない。 「フェリエール、いつも迷惑をかけて済まない。だが、私には他に頼る者がない」 「わかっていますよ。ところでこれからどのようにされるお積りですか」 「あてはない」 「なら」  また二人の額に手の甲をスタンプした。さっきと別の魔法陣が二人の額に輝いていた。 「うわっ」  二人の躰が浮いた。 「ここから南へ向かうといいでしょう。南の国の方が景気がいいですからね。例えば港の街ヴィクトール国のアシュビーならば3時間程で行けます。躰が消える術と飛行の術の効果は丸3日くらいもちます。ご自身で消えたり、飛べたり自由にできます」 「フェリエール。済まない」 「いいんです。さあ、行ってください。また役人が来たら面倒なことになりますから」 「今生の別れかも知れぬな」 「ご無事をお祈り申し上げます」 「フェリエール、元気でな。感謝している。お前のことは忘れない」  王子の目に涙が光っていた。  二人は飛び立って行った。 「王子の好きな人って、ロゴだったんだ」 「やるね。王子も」  その後、国から王子が病死したと発表があった。葬儀が行われたが、とてもしめやかで一般人の葬儀のようだった。 「亡くなったことにしたんだね」 「王子が女の子で、駆け落ちしちゃったなんて国民に知らせられないものね」 「国王の体面かな」 「王子の姉姫が女王になれるように法律を変えるんですってね」  その後、アルフォンスは女王の国になっていくんだけど、それはまた別のお話なので。 「王子は病死、ロゴは出奔、パトはおとがめなし、なんでしょ?」 「いいところに落ち着いたんじゃない?」  あたしたちは呑気にしていたけど、まさかこっちに火の粉が降りかかってくるなんて、このときは思いもよらなかった。  
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