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その次の日、あたしは、朝からフェリスと別行動をすると宣言した。フェリスはちょっと心外だったようだ。けど、特に理由も聞かないで自由にさせてくれた。めざすは南の森だ。
どうして、森へ行きたいのだろう。自分でもわからない。
シャーさんに会ったときの自分の心の動きを解明したい、というか、自分の心の動きを再現したい、というか。とにかくシャーさんに会うと今までに感じたことの無い感情が発生するから、それが何か、知りたいの!(最後は何故か、怒り)
フェリスがつけてくるんじゃないかと思う。それが安心なのか、鬱陶しいのかも、あたしはよくわかんない。
今度はコンパスを用意した。念のため。
森へ入って、広場に出た。
木の上にヒョウが横たわるようにして、白いローブの人がいた。気怠そうにあたしを見る。
どき。
案外、簡単に会えた。
「危険だといったはずだ」
木から飛び降りて近づいてきた。
どきどきどき。
「あんまりにも綺麗な森だから、気に入っちゃって」
あたしは、言い訳した。
「伏せろ」
「え?」
急にシャーさんが覆い被さってきた。心臓がばくばくいう。
ずしん、ずしん、ずしん、ずしん……。
あたし達の頭の間際を巨大なサイみたいな魔物が通り過ぎて行った。
(きゃー)
シャーさんはあたしを躰で覆って周囲の景色に同化していたようだ。そして、シャーさんはなんだかいい匂いがした。(これは後にフェリスが「ディアちゃんはアウラを匂いとして感じる人なんだよ」といっていた。「そういう人、結構いるんだよね」ともいっていた)
サイはあたし達に気づかず行ってしまった。
「昨日はついていただけだ。もう、ここへは来るな」
「#$&%!☆」
「?」
シャーさんが身をどかした。あたしは飛びのいた。はー。びっくりした。
「あ、あの!」
「なんだ」
「フェリスってどうやって生活費を稼いでいるのか、それを聞きたくて、ここに来たんです!」
何をいっているのだろう、あたしは……。ほんとはどうでもいい。
「フェリスに尋ねればいいだろう」
「お小言みたいになるのが嫌なんです!」
「金鉱や遺跡の発掘をしている」
「え?」
「フェリスは精霊とコンタクトがとれるから、鉱脈を当てることができる。魔導士がよくやっているバイトだ」
「そ、そうなんですか……」
フェリスってやっぱ魔導士なんだ。でも、今は、それはどうでもよくて、なんだか、あたし、いっぱいいっぱい、だ……。
「そういえば」
シャーさんは何か思いついたみたいだ。
「バイトといえば、ディアにやってもらいたい仕事がある」
「え?」
「一か月ほど住み込みになるかもしれない。上手くすれば、もっと短期間になる」
「はあ」
「フェリスには私から伝える」
「あ、はい」
「引き受けてもらえるか?」
「はい?」
シャーさんは小屋にある水晶の柱の前にあたしを立たせた。急にくらっとして、躰が崩れた、かに思えたが……。
「うう……」
あたしはよろよろ体勢を立て直した。すると、水晶の中に自分がいる。
「?」
周りの物が急に大きくなったみたいだった。自分の手を見ると、人間の手じゃなかった!
「ウキ?」
あたし……サルになっている! しっぽが長くて、毛がピンク色だ!
シャーさんはあたしを手にのせた。
「ずいぶん可愛くなったな」
シャーさんが微笑んだ。ときどき、こういう表情するんだな、この人。見惚れてしまった。最近のあたしはなんかおかしい。
シャーさんはフェリスと反対だ。フェリスはおどけたふりをした真面目で、シャーさんは一見暗いけど、ほんとうは随分おちゃめな人のようだ。フェリスがいっていた『精霊性』っていうやつなのだろうか。
シャーさんがあたしを肩にのせた。するとクリーム色のもやが現れた。もやを抜けたな、と思ったら、白い大理石でできた建物の中にいた。
(ここは、王宮だわ)
シャーさんは、銀髪、赤目の美女に変わっていた。あれ? 最初にあたしを迎えにきたのは、シャーさんだったの? そういえば、シャーさんの性別って? 男の人よね?
「キー、キー、キー!」
「今は話せないと思うが」
王宮の広い廊下をすたすた奥へ向かう。
(無視ですか……)
そのまま大きな扉の前へ行った。扉の両側にロゴとパトがいた。ロゴが訊いた。
「シャルナハ殿ですか?」
「そうだ」
「殿下がお待ちかねです」
「それは申し訳ない」
扉が開かれて謁見の間に通された。そのまま、王子の前にすすんで、シャーさんはちゃんとひざまづいた。ロゴとパトが後ろに控えた。
「シャルナハ殿か。毎回、異なった姿で来られるから、楽しみだ。いつもながら見事に変身されるものだ」
殿下ことアルフォンスのルタ・セフェル王子は15歳と聞く。子どものような風貌をしている。美少年だ。
「今日は珍しいサルを入手しましたので、献上に参りました」
あたしをロゴに渡した。ロゴが王子に渡す。
「可愛いサルだな。それに大人しい」
「ものをいいます」
「喋れるのか」
「ただし信用する人間としか話しません」
「私はこのサルと話せるだろうか」
「殿下はお優しいから大丈夫でしょう」
そうして、シャーさん(シャルナハ殿?)はあたしを置いて帰ってしまった。
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