3人が本棚に入れています
本棚に追加
あたしは金色の鳥かごに入れられて王子の部屋にしばらく放置された。
(退屈……)
シャルナハという名は聞いたことがある。謎の魔道士で、御山(みやま。魔導士養成学校がある山、本当の名前はエリンギ山とか薫平岳とかいうらしい)に在籍していた記録が無い魔導士だ。アルフォンスの魔道士なら、御山を出ていなくては一流ではない。でも、実力は確かで、数々の力比べに挑まれても負けたことがないらしい。さすらいの魔道士だ。不死身という噂もある。フェリスが前にシャーさんのことを不死人とかなんとかいってたな。最近、あたしの周りは魔法のなんたらばっかりで穏やかじゃない。
夕方になって、王子が部屋に戻ってきた。
「ごめんね。おさるさん。こんなところに閉じ込めてしまって」
王子がかごから出してくれた。近くで見ると、女の子みたいに可愛い。声も可愛い。
(これがアーシアの子孫かぁ)
髪はあたしと同じ黒だけど、茶色っぽい。瞳も茶色だ。アーシアは銀髪だったらしいけど、妻のルーシアが黒髪、黒目だったらしい。遺伝子的に黒が優性なのだろう。アーシアが何代前の先祖になるのかは知らないけど。
「おさるさんは、女の子なのか?」
王子が話しかけてきた。
「あ、女の子です。一応」
あれ? 喋れた。
「本当に話したな。驚いた」
「あたしも驚いています」
「面白い」
「そうですか?」
「今から着替えるが、女子同士なら平気だな」
(女子同士?)
王子は服を脱ぐとサラシを解き始めた。
「え? 王子でしょ?」
胸がある。
部屋着に着替えた王子は、側に来て、あたしをそっと抱きかかえた。
「これは秘密だぞ。私は女なのだ」
「でも、跡継ぎなんじゃないの?」
「父上は今、血眼になって私を男に変える術を探していらっしゃる。高名な魔導士や僧侶をどんどん召し抱えていらっしゃる。アルフォンス特有の魔道士部隊ができたのは、そういう訳だ。だが、私の秘密は、まだ、誰も知らない」
「だからフェリスの部屋を探ったの?」
「フェリエールのことだな。聞いている。迷惑をかけてしまった。私が指図したのではないが、申し訳ないことをした。フェリエールとも知り合いか?」
「は、はい」
「フェリエールは昔、山にいた頃は月に2,3度王宮へ訪ねて来て、アーシアの残した書物を調べていた。昔は兄のように思っていた。亡くなったと聞いたときは、それは悲しかった」
「でも、生きていたことがわかったのね」
「フェリエールとシャルナハはつながりがあるのか? フェリエールが死んだと耳にした直後にシャルナハが現れたから、当時はてっきりシャルナハがフェリエールではないかと思っていたのだ。同じ銀髪であろう。呼びつけて確認したが別人であった」
「別人ですけど、腐れ縁があるそうです」
「そうか」
「あたしも二人の関係にはイマイチ詳しくないので」
「そうか。さすが謎の魔道士だな。私はフェリエールが生きてさえいたなら、どうであれ構わない」
「大した情報を持って無くて、すいません」
「いやいや、構わぬ。あ、おさるさんは名前はあるのか」
「おさるさんで結構です」
「私のことはルカと呼ぶがいい」
「え? ルタ王子じゃないんですか」
「本名はルカだ。そうだ、おさるさん、この王宮にはフェリエールもしらないアーシアの財宝がある。秘密ついでに見せてあげよう。ただし、フェリエールやシャルナハには秘密だ」
「秘密を守れる自信がありません」
「はは、気にするな、冗談だ。いずれはフェリエールにも見てもらおうと思っていた物だ」
王子はあたしを肩に乗せて部屋から出た。誰もいない。王子はそのまま王宮の奥へ向かった。
王宮は想像したより簡素で趣味が良く、造りが美しかった。色は白一色に統一してある。現代、この国の金持ちは城に色をたくさん使って富を競い合うのが通例だ。でも、この王宮はそんなこと気にしてはいない。昔できた城だからだろうか。
「セフェル家はもともと王家だった訳では無い。アーシア・セフェルは旧モーフ領の領主の息子だった。300年前、魔王の反乱に遭い、レニー国の8つの領土が統合され、レニー国より独立した。アルフォンスはレニー国から交通の便が悪く、荒涼とした土地だったため、ほとんどレニー国から見放されていたのだ。独立は簡単だった。アーシアは魔王を倒して、自らも命を落としたが、その功績を讃えてセフェル家は王家として迎えられたのだ」
「アーシアは死んだとき、子どもがいたの?」
「いた。フィアンセのルーシアが身籠っていたのだ」
「妻じゃなくてフィアンセだったのか」
「ルーシアは子どもを産んだ直後、アーシアを追って自殺した」
「悲劇ね」
「子どもはアーシアの父上のユーリスが引き取り、ユーリスがアルフォンスの初代王となった」
「そして今の王家があるのね」
王子は扉を開けて、地下への階段を降り始めた。降りた先に地下道が続いている。
「王宮にこんな地下道があったんだ」
王子は地下道の突き当りの扉を開けた。
「わぁ」
地下なのに広くて明るい。天井がドームみたいに丸くて、照明でできたみたいに輝いている。どういう仕組みかな? 魔法かな?
ドームの下一杯に巨大な水晶が鎮座ましている。
「この水晶はなに?」
「魔王が封印されていた水晶だ」
「されていた」
「20数年ほど前に中の魔王は消えてしまったのだ」
「復活したってこと?」
「そうかもしれぬ」
「大変じゃない!」
「大丈夫だ。また、アーシアが現れる」
「この水晶が魔王の大きさなの?」
「私は魔王を見たことはない。姉上がお小さい頃一度だけご覧になったらしい」
「魔王の姿って、どんなの?」
「山のように大きい、黒い鱗に覆われたドラゴンだったと」
「黒いドラゴンって魔界にしかいないはずじゃないの? 最強なんでしょ? しかもこんなに大きいなんて!」
だんだん怖くなってきた。
「あれはなに?」
水晶の中に薄紫で半透明の細い剣が浮いている。
「アーシアの剣だ。あれがアーシアの財宝だ」
レイピアとかいう剣ではないだろうか。
「この大きさのドラゴンを倒すには細すぎない? とても綺麗だけど」
「あれは映像だ。実体はない」
「どういうこと?」
「水晶の精霊でできているらしい。普通の人間では触れることもできない」
「普通の剣じゃないんだ」
「アーシアも並みの人間ではない、という事だ」
最初のコメントを投稿しよう!