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 夜は王子とガールズトークした。 「王子は好きな人はいないの? 男にされちゃうかもしれないけど」 「……いる」 「いるの! じゃあ、男のなるの嫌よね? それとも女の子が好きなの?」 「男性だ」 「王子の旦那さんが王様になればいいのよ」 「父上はアーシアの血を受け継いだ者を王にしたいのだ」 「父王、勝手ね」 「300年の伝統だから、仕方が無い。国民の期待も裏切れない」 「アルフォンスの人ってアーシア大好きだもんね。誇りにしてるもん」 「代々の先祖にも申し訳ない。父上の立場もある」 「女王になれば?」 「今更『王子は女子でした』とはいえまい」 「なんで、男の子が生まれたことにしたのかしら! 見切り発車もいいとこだわ! もう、後に引けないじゃない! 王子は災難ね」 「おさるさんは好きな人はいないのか?」  シャーさんの微笑みが頭をよぎる。 「いやいやいやいや」 「どうしたのだ?」 「なんでも、ない、です」 「秘密か?」 「いやいやいやいや」  これは……一体、なんなんだろう?  次の日、王子はあたしを謁見の間に連れて行ってくれた。王子の肩に乗って、来る人来る人を観察した。魔道士ばかり続々とやってくる。 「父王はどうしてるの?」 「奥の間で重要な人物とだけお会いになるのだ」 「ふーん」  ロゴが王子に歩み寄ってきた。 「王子、フェリエールが参りました」 「フェリエールが!」 「ウキ?」  フェリスなんだろうか?  謁見の間に入って来たのは、まぎれもなくフェリスだった。今日は銀髪で純白の魔道服を着ている。普通の魔道士は黒服だが、フェリエールは白なのだ。というのはアルフォンスの常識になっている。  マントは短く、背中が隠れるくらいの長さしかない。その方がすっきりしてフェリスに似合っている。足が長くて、頭身が高いのもよくわかる。 (いつもと違って、凛々しい……)  ほっとした。元々、美形なんだから、普段からこういう、ちゃんとした格好をしていればいいのに。保護者のような心境だ。 「王子、御無沙汰をしておりました」 「フェリエール。いや、フェリス。無事でなによりだ」  王子の目に涙が光っている。早く会いに来ればいいのに。 「殿下。私のことは山へは知らせないで下さい」 「訳ありのようだな」 「申しわけありません」 「また、以前のように気軽に訪ねて来て欲しい」 「はい」  フェリスは一度もあたしを見なかった。王子との謁見の後、奥で父王に会って、帰って行った。あたしのこと、フェリスにはどう伝わってるのかしら。  その夜も王子と女の子としての話をした。 「王子が女の子だってこと、誰が知ってるの?」 「父上と母上と姉上、あとロゴスとパトス」 「ずいぶん少ないのねぇ」 「うむ」 「そういえば、お付きの人とかいないのね」 「昔から私の世話は母上がお一人でなさって下さって、私も物心ついたときから、自分のことは自分でしてきた」 「それって王族には珍しいんじゃないの?」 「そうか?」 「でも、これから隠していくのは難しいわね。王子だって女の子らしくなっていくだろうし」 「私は成長が遅い方だったのだが」 「もうすぐ、ごまかせなくなるわね」 「うむ」  八方ふさがりなんじゃないだろうか。フェリスに頼んだら何とかしてくれるのかな? 「おさるさんが来てくれて私は本当に嬉しい。フェリエールも生きていたし、秘密を話せる相手もできた。今までこんなに楽しい気分になったことはなかった。おさるさんに本当に礼をいいたい。ありがとう」 「そうなの。そのくらいのことでいいなら。良かったわ」  この子はかなりポジティブな考え方をする子なんだな。だから、今まで耐えられたんだ。王子という立場だけでも孤独だっただろう。力になってあげたいなと思った。 次の日、あたしは一人で王宮の中を歩いてみた。城内の人には王子がいってくれてある。 「いつまで、ここで暮らせばいいんだろう」  王子のこと、フェリスに相談したいな。  地下に下りる扉は鍵がかかっているので、剣を見に行くことは叶わなかった。綺麗だったから、もう一回くらいは見たかった。そう気安く見られないのがいいのかも。  王宮は広くて、サルの足では回り切れない。中庭に面した渡り廊下で一休みすることにした。のどかで、いい天気だ。とんびが飛んでいる。  ばさばさばさっ!  え。  とんびが舞い降りて来て、あたしを掴んで空へ舞い上がった。 「うそー!」  街が小さく見える。  あ、そうか。 「とんびさん、実はシャーさんなんでしょ?」  とんびは答えない。  ぜつぼー的。  と、突然とんびがあたしを放した。 「きゃーああああああ!」  食べられるのも嫌だけど、落ちてぺちゃんこもいやー!  気が付くと森の丸太小屋の中だった。人間に戻っていた。 「ディアちゃん、お疲れ様」  フェリスもシャーさんもいる。 「夢?」 「全部、現実だよ」 「ディア、聞かせてもらおうか」 「え? 何をですか」 「ディアちゃんのスパイの成果を、だよ」 「王子が女の子だってことね?」  フェリスががくっと肩を落とした。 「やっぱりか。でも、もう、気が付いてる人もいそうだけど」 「うん」  フェリスはため息をついた。 「シャー、女を男に変える魔法ってあるかな」 「普通の人間は変えられない。目ぼしい魔法はないはずだ」 「黒魔術の分野かな。黒魔術を研究してる奴でまともな魔導士はいないと思うけど。どうせ大して開発できてないだろうし。心霊手術とか、どうなのかな」 「病巣を取り除くとか、手足をくっつけるくらいならできるが。応用して……」  なんか勝手に相談がすすんでいる。 「待ってフェリス。王子を男にしちゃうの?」 「いや、そんなつもりはないけど」 「心霊手術なら他の躰が必要だ。お前の躰を提供すれば王子を男にできる」 「冗談きついよ」 「フェリス、王様とは何の話をしたの?」 「王には最近も術の研鑽をしてるのか訊かれただけだし、後は世間話だよ」 「具体的な話はまだ、誰にもできてないはずだ」 「王様、どうするつもりかしら。跡継ぎの問題」 「ディアちゃん、王子は前向きで賢い人だから、自力で切り開けるよ。信じよう、王子を」 「そんな結論なの! フェリスなんかに期待したあたしが間違ってた!」 「えー」 「ディア、バイト代をやろう」  シャーさんが金の小さいメダルがついたペンダントを首にかけてくれた。 「これ、本物の金ですか?」  シャーさんが微笑んで頷いた。  どき。思わず目をそらしてしまった。  もう一度、振り向くとシャーさんはもういなかった。 「ディアちゃん。そのメダルはアーシア・スペルの魔法陣(ペンタクル)が彫ってあるんだ」 「へええ」  綺麗なレース編みみたいな文様が細かく彫られている。 「そのペンタクルの効果は、『軽い魔物除け』『心の力を増幅する』『ある場所の鍵』だよ。具体的には、この森にいつでも来ていいし、念じるといつでもシャーを呼べるし……」 「え!」 「そこポイント?」 「いやいや」 「なんで赤くなるの?」 「しらない!」
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