花守り人の憂鬱

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「瑠璃」  瑠璃は顔を上げた。目の前には、鮮やかな赤色の小振袖を来た、ポニーテールの少女が立っている。少女も瑠璃と同じく、花の植えられた鉢を胸に抱えていた。その鉢に咲いているのは、その着物よりもずっと柔らかい朱色の花だ。 「あ、瑪瑙(めのう)。……久しぶり」  驚いた様子で、瑠璃は言った。瑪瑙と呼ばれた少女は瑠璃のかたわらにしゃがみこむと、自分の鉢を瑠璃の鉢の隣に沈めた。ちゃぷん、という音がして、鉢の底からいくつも水泡が立ち上る。 「この子たち、気が合いそう」  そう言って瑠璃の方を向くと、無邪気な笑顔を浮かべて言った。 「ほんとうに、久しぶり。担当地区が離れてしまってから、ずっと会えなかったもの」  相変わらず作り物めいた微笑みを浮かべながら、ほんとに、と呟いて瑠璃は頷いた。瑪瑙が、じっと彼女を見つめてから言った。 「何かあったの? なんだか少し悲しそう」  はっとした様子で、瑠璃は瑪瑙を見つめ返した。ためらいつつ、瑠璃は口を開いた。 「実は久しぶりに、私たちのことが見える人間の子どもに会ったの。今回お迎えした人の、お孫さんだった。そのとき、その子がお祖父様にだけ聞かせようとした話を、私、聞いてしまったの。それで、つい声をかけてしまった。あの子、とても驚いていたし、なんだか少し怒っていたみたい。それに……」  そこまで言って、瑠璃は口をつぐんだ。しかしすぐに思い直した様子で言葉を続けた。 「また、『いやなこと』を言われてしまった」
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