花守り人の憂鬱

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 小さくため息を吐いて、瑪瑙が言った。 「また、そんなことを気にしているの。彼らが勝手につけた呼び名なんて、気にしてもどうしようもないのに。私たちには立派な名があるし、まるで死を呼び寄せる存在みたいな名前、あまり気分のいいものではないけれど……」  そこまで言いかけた瑪瑙を遮って、瑠璃は言った。 「そうではないの。私が嫌なのは、呼び名自体ではないの。その名で私たちを呼ぶときの、人間たちの言い方や、まるで禍々しい、不吉なものを見るような眼差しが、つらいの」  ひとつ息を吐いてから、瑠璃は続けた。 「私たちのやっていることって、そんなにいけないことなのかな」 「まさか!」瑪瑙が叫び声を上げた。 「そんなわけないでしょう。……人間の命が尽きるとき、その魂を迎えに行き、この庭園へ誘って休ませる。その花が浄化されて、新たに生まれ落ちた種子が水路に運ばれ、再び地上で命と身体とを得るときまで。これが、私たちの仕事。もう何百年、何千年も前から……人間たちが、明確な自我を持ち始めた頃からの、私たちの仕事。いけないことなわけないじゃない」  吐き出すように、瑠璃は言った。 「それでも、ときどき考えてしまうの。なんのために、いったい誰が? 私たちを生み出し、この庭園やここ以外の、人間たちの魂の休息場所と決まりごととを、創り出したんだろうって。私たちは、人間たちとよく似た姿をしているのに、人間たちと色々なことが違う。すべてが、不思議で不思議でたまらない」
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