4人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
瑠璃が入っていくと、たちまち鵞鳥たちの臭いや、餌、フンのにおいが鼻を突いた。
鵞鳥たちの暮らす小屋だった。鵞鳥たちは本物の鵞鳥ではなくて、あの庭園の花たちと同じく、もとは人間だった者たちだ。
ガアガアと鳴きたてる鵞鳥たちの群れに取り囲まれるようにして、一人の少年が座っていた。鵞鳥の世話番――これも守人の一種――の一人だった。色褪せて、裾がぼろぼろになった粗末な着物を着た、毬栗頭の少年に、瑠璃は声をかけた。
「久しぶり、茜」
少年が振り返り、瑠璃を見とめると微笑んだ。
「やあ、瑠璃」
少年は、膝に一羽の鵞鳥を載せていた。夕焼け空に浮かぶ雲のような、色をした鵞鳥だった。
瑠璃が近づいてその鵞鳥をしげしげと見つめると、茜と呼ばれた少年は言った。
「この冬からの新入りなんだ。人間のときは、リオって呼ばれてたんだって。きれいな色してるだろ」
瑠璃が頷くと、彼は今度は鵞鳥に向かって言った。
「この子、ぼくの友だちで、瑠璃っていうんだ。僕と違って、きれいな格好してるだろ。花の守人をしてるんだって。ほら、ご挨拶して」
「初めまして、リオさん」
瑠璃がそう言うと、茜の膝の上で首を伸ばしながら、おずおずと鵞鳥は応えた。「初めまして、ルリさん」
鵞鳥と瑠璃とは、しばし見つめあった。その沈黙を破るように、茜が言った。
「すぐ次の仕事へ行くの?」
「ううん。……少し、ここで休んでいってもいい?」
彼女が尋ねると、茜は見るからに嬉しそうな笑顔を浮かべて応えた。
「もちろん。座りなよ。……少し、汚ないけど」
最初のコメントを投稿しよう!