花守り人の憂鬱

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 瑠璃が入っていくと、たちまち鵞鳥たちの臭いや、餌、フンのにおいが鼻を突いた。  鵞鳥たちの暮らす小屋だった。鵞鳥たちは本物の鵞鳥ではなくて、あの庭園の花たちと同じく、もとは人間だった者たちだ。  ガアガアと鳴きたてる鵞鳥たちの群れに取り囲まれるようにして、一人の少年が座っていた。鵞鳥の世話番――これも守人の一種――の一人だった。色褪せて、裾がぼろぼろになった粗末な着物を着た、毬栗(いがぐり)頭の少年に、瑠璃は声をかけた。 「久しぶり、(あかね)」  少年が振り返り、瑠璃を見とめると微笑んだ。 「やあ、瑠璃」  少年は、膝に一羽の鵞鳥を載せていた。夕焼け空に浮かぶ雲のような、色をした鵞鳥だった。  瑠璃が近づいてその鵞鳥をしげしげと見つめると、茜と呼ばれた少年は言った。 「この冬からの新入りなんだ。人間のときは、リオって呼ばれてたんだって。きれいな色してるだろ」  瑠璃が頷くと、彼は今度は鵞鳥に向かって言った。 「この子、ぼくの友だちで、瑠璃っていうんだ。僕と違って、きれいな格好してるだろ。花の守人をしてるんだって。ほら、ご挨拶して」 「初めまして、リオさん」  瑠璃がそう言うと、茜の膝の上で首を伸ばしながら、おずおずと鵞鳥は応えた。「初めまして、ルリさん」  鵞鳥と瑠璃とは、しばし見つめあった。その沈黙を破るように、茜が言った。 「すぐ次の仕事へ行くの?」 「ううん。……少し、ここで休んでいってもいい?」  彼女が尋ねると、茜は見るからに嬉しそうな笑顔を浮かべて応えた。 「もちろん。座りなよ。……少し、汚ないけど」
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