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しばしの沈黙の後、瑠璃はくすくすと笑い始めた。茜が不思議そうにどうしたのかと尋ねると、彼女は答えた。
「四六時中、鵞鳥たちのことで頭がいっぱいの茜の方が、人間のことを分かっているみたい」
茜は少し驚いた様子で声を上げた。
「鵞鳥たちはもともと人間で、その世話をするのがぼくの仕事なんだから、当然だろ」
「いつも、鵞鳥たちのことばかり考えてるものね。私のことも興味ないんでしょう」
心外だ、とでも言いたげに、茜が抗議する。
「今は瑠璃のことを考えてるよ」
「話している相手のことを考えるのって、普通のことでしょう」
あきれた様子でそう言った彼女を、茜は目を円くして見つめた。
「そうなの?」
瑠璃が頷くと、茜はためらいがちに説明した。
「ぼく、今まで、人と話すときは、鵞鳥たちのために話さないといけないことしか、考えてなかったよ。でも近頃、瑠璃と話してるときは、瑠璃は今何を考えてるんだろうって、気付くと考えてる」
「どうして?」
しばらく頭を抱えこんだ後、茜は答えた。
「瑠璃が、鵞鳥に似ているせいかもしれない」
「どこが?」
腕組みをして、口をへの字に曲げたまま、考え考え、茜は応えた。
「ふわふわした髪の毛が、鵞鳥の羽毛みたいだ。それに、用もないのにしょっちゅうここへ来て、ぼくに話しかけるじゃない。ぼく、守人たちとは仲良くなれないけど、鵞鳥にはなつかれるんだ。だから、瑠璃は鵞鳥に似てると思う」
面食らった顔をしたあと、瑠璃は声を上げて笑った。それまでの作り物めいたものとは違う、本物の笑顔と笑い声だった。
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