花守り人の憂鬱

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 病室には、先ほど彼女の前を通りすぎた親子と、看護士がいた。彼らは立ったままベッドを取り囲み、横たわる老人の顔を一心に覗きこんでいる。瑠璃はこっそりと、壁につくりつけられた戸棚の後ろへと身を隠した。 「お祖父ちゃん」  少年が硬い声で呟いたが、ベッドの中の老人は何の反応も示さず、固く目を閉じたままだった。  老人の鼻や喉、腕や胸からはそれぞれチューブがのびている。口には人工呼吸器が付けられていて、彼の胸の上下運動に合わせて、シュー、シュー、と、規則的な音を発していた。  ベッドの向こうには波形が表示されたモニターがあった。そのモニターからは、ピッ、ピッ、という電子音がときおり、まるで思い出したように、途切れ途切れに聞こえてくる。  病室の扉が開いた。 「悪い、遅くなった。…父さんは?」  入ってきた男は、開口一番そう言った。少年の父親が、兄さん、と言って、男に駆け寄る 「だめだ、もう…」  そこまで言うと、言葉を切った。そして、妻と目を見交わした後、男を促して外へと出ていこうとした。出ていく直前に少年の方へ振り返って、お前も来るか、と声をかけた。  すると少年は首を横に振った。 「いい、お祖父ちゃんといる」
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