花守り人の憂鬱

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 壁も床も天井も、すべてが白く滑らかな大理石でできた細い廊下を、瑠璃は黙々と歩いていた。胸には、瑠璃色の美しい花が植えられた鉢を大切そうに抱えている。  廊下はしんとしており、彼女のほかには誰もいない。と、廊下の突き当たりに差し掛かかった。白い絹の帳が、微かな風にふわふわと揺れている。  その帳を、瑠璃は片手でそっと押し退け、進んでいった。鋭い光が瑠璃の目を刺すと、彼女は眩しそうに目を細めた。  帳の向こうは、白い大理石で造られた、円形の広場だった。  ぐるりを取り囲む壁には、絹の帳で遮られた入り口がずらりと並んでいる。中央には巨大な噴水が据えられ、そこから噴き出す水が飛沫をあげ、虹色の光を振りまいていた。  噴水の周囲の広い水溜めの中には、色とりどりの花の鉢が無数に並んでいる。花たちは、噴水から流れ落ちる水の微かな波にたゆたいながら、まるで心地よい夢でも見ているように、その瑞々しい花を天へと開いていた。  瑠璃はその縁に立つと、抱えていた鉢をそっと水の中へと沈めた。そして、そっと花に囁きかけた。 「疲れたでしょう。ゆっくり、おやすみなさい。……また、種子(たね)をつけるまで」  水の中に落ち着くと、もとより美しかったその花は、その輝きを増したようだった。
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