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花守り人の瑠璃は、ただじっとして、そのときが来るのを待っていた。まだつぼみのままの花が植えられた小さな鉢を両手でしっかりと抱え、ところどころに破れ目のある古びた革張りの長椅子にちょこんと腰かけて。
実際、彼女の仕事のうち、いちばん重要でいちばん時間を割かなければならなかったのは、「待つこと」だった。
日曜日の昼下がり。市民病院の廊下は、職員や患者、そして見舞い客らしい人々がひっきりなしに往き来していた。階下のロビーから、薬の受け渡しを待つ人々のざわめきや、薬の用意が調ったものを番号順に告げるアナウンス放送などがかすかに聞こえてくる。
目の前を通り過ぎていく人々を見るともなしに眺めながら、瑠璃はひたすら待ち続けた。その口元には、どこか作り物めいた微笑みが浮かんでいた。
三月上旬の、よく晴れた日であった。病室には蜂蜜色の光が射し込み、真っ白い床やベッドを金色に染め上げていた。
艶やかな黒髪をきれいなおかっぱ頭に切り揃え、その名と同じ瑠璃色の地に色とりどりの小花が散る小振袖を身にまとった、十歳前後とおぼしき少女。廊下を通り過ぎる人々のうちに、このなんとも時代錯誤な出で立ちの少女に目を止める者は一人としていなかった。
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