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一章 ポルボロンとテディベア
『末筆ながら、瀬尾様の今後ますますのご活躍をお祈り申し上げます』
私・瀬尾明理は、今しがた届いたばかりのメールをスマホで確認し、がっくりと肩を落とした。
(これ、何通目なんだろう)
今年の春から就職活動を始め、両手足の数では足りないほどの企業を受けてきた。けれど、良くて一次面接、ほぼ書類審査で、ことごとく玉砕している。
大学の女友達は、皆、内定が出ていて、七月も半ばを過ぎて、どこも決まっていないのは私だけだ。
(アパレル業界、合ってないのかな)
服が好きだと言う理由で、就職活動はアパレル業界を選んだのだが……。
志望動機は「御社の商品が好きだからです」。自己PRは「笑顔と明るさ」。学生時代に打ち込んだことは「カフェ巡り」。
友達には「自己分析が甘い! もっと脚色しないと!」とダメ出しをされた。曰く、ただの「カフェ巡り」ではいけないらしい。どういうカフェにどんな客がやって来るのかを分析し、その町のアパレルブランドの出店傾向と絡めた研究をしていた」という理由にしないと、面接官には響かないのだそうだ。そんな難しいことを考えながらカフェ巡りをしていたわけではないので、そうアドバイスをされた時は、腑に落ちない顔をしてしまった。
それにしても暑い。黒いリクルートスーツが熱を集めている。頭がクラクラしてきそうだ。
(今日、説明会に出た会社で内定が取れたらいいんだけど……)
もういい加減、就職活動にピリオドを打ちたい。不合格通知がくるたびに、人格を否定されているような気持ちになる。
鬱々としていると、不意に眩暈がした。
思わずその場にしゃがみ込む。
(なんだか気持ちが悪い。早く帰って、エントリーシートを書かなきゃいけないのに……)
「君……今にも死にそうな顔をしているけど、大丈夫?」
突然、男性に声をかけられ、私はゆるゆるとそちらを向いた。
チノパンに、半袖の白シャツを着て、両手にA型の黒板を持った若い男性が、私の顔を覗き込むように前かがみになっていた。
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