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『必読書150』より精読中③*『俘虜記』
台風10号の被害が心配です、未苑です。
どうか皆様、引き続き安全第一でお過ごしになってくださいね!!(;_;)
そして、前回は書籍デビュー作『人生投影式』へ沢山のお祝いをありがとうございました✨✨😭✨✨ お優しい言葉に「夢が実現した」としみじみ実感が湧きます……♡♡♡
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久しぶりの読書記録、今回はちょうど夏休み最終日ということで読書感想文風にお送りします♪(←と書いておいて、最近の宿題には読書感想文がないとニュースで知ってびっくり!)
*捕虜になって露わになるエゴと「人間性」*
『俘虜記』 大岡昇平 新潮文庫
戦後79年目の8月、太平洋戦争にて著者・大岡昇平が経験したフィリピン俘虜生活をこまやかに記録した作品を選んでみました。こちらは『必読書150』(※1)からの選出です。
昭和20年1月、ルソン島西南に位置するミンドロ島にてアメリカ軍の捕虜となってしまった中隊軍の「私」(著者)。
戦地で一人きりになった際にアメリカ兵と対峙した刹那、本能的に「相手を殺してはならない」と銃をおろし己の持つ人間性、生物的本能を鑑みるようになります。
そして「私」の鋭い眼は、同じく収容所に囚われた(元)日本兵達の生活をつぶさに観察していくことに。
やたら下の世話を執拗に請い願ってくる元上官、以前の主従関係にやたらと固執する者、新入りに食料を売りつけて時計など持ち物を買い占める古株達、女の格好をして舞台に立つ者……。
そして、規律がなければ堕落していく様を目にします。
なにせ収容所では、アメリカ軍に与えられた業務を行う以外、他にすることがない。毎日2700キロカロリーもの食事と酒、タバコを配給される<過剰>だった俘虜生活を顧みながら記す「私」はふと、悟ります。
“自分はまだ俘虜なのではないか”と……。
なんと冷静に、精密に描かれた戦争小説なのでしょう……!!
軽やかな筆致ゆえに、捕虜仲間という<市井の人々>のアイロニックな描写は不思議とおかしくて、「あれ、これって太平洋戦争の小説だよね?」と思ってしまうほど。その一方で、先の戦争と兵士達のエゴイズムをスパイシーに言い切ります。
“専ら彼等に戦意が足りなかったという事実に拠るとすると、国家が彼等を戦場へ送ったのは、国家にとっても、彼等自身にとっても、遺憾なことであった。”
それもその筈、「私」こと大岡昇平は京大出身で、収容所では中隊の翻訳係を務めているインテリ(仏文研究だったこともあり、作中にジッドだのスタンダールの文献が多用されています)。
その上、収容所内で執筆を始めると作品が回し読みされるほど人気になるという!!
どれだけ世間を斜に構えて見てい……いや、観察眼なのでしょうね(笑)
この作品で小説家の地位を得ますが、のちにカニバリズムを題材にした代表作『野火』(※2)を描くだけあります。
また、 「人を人たらしめるもの」への追究が凄まじかったです。例えば、本書で最も感慨深かった広島・長崎の原爆投下を知ったシーン。
“私の不安の原因を、人間が一瞬に多勢死ぬという情況の想像が、私の精神に及ぼす影響より求められない。
(略)これほど「多数」に動かされるのは、人類の群居本能よりないと思われる。純粋に生物学的な感情だ。
生物学的感情から私は真剣に軍部を憎んだ。”
そして冒頭、アメリカ兵と一対一で「撃つか撃たれるか」となった際も、
“「他人を殺したくない」という我々の嫌悪は、恐らく「自分が殺されたくない」という願望の倒錯にほかならない。”
これらの反応を「私」は「一種の動物的な反応」と呼びます。しかも、決して人間愛の強い方ではない、と断りを入れる謙虚さ(?)が個人的に素敵。
人間はいかにして<人間性>を保てるのか。
そして個人が集団になった時、各自のエゴイズムとの狭間でそれを保てるのか。
改めて、俘虜の経験から語られる<社会=集団が人間をつくる>の言葉の重みったらなかったです!!
※1 『必読書150』についてはこちらご参照:https://estar.jp/novels/25793840/viewer?page=360
今年の目標は上記リストアップから30冊読破なのですが(未読のもの対象)、なんとまだ6冊です💦 目標達成する気があるのか、自分!!(苦笑)
※2 人肉食を扱う『野火』は、私の好きな映監督・市川崑に1951年に映像化されています。実は未視聴💦 「水島ー、日本に帰ろうー!」は見ているのですけど💦
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