蝕むモノ、抗う者

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蝕むモノ、抗う者

 死。それは凡人も偉人も最後には通る生命の終着点。それは結果は同じでも過程は大きく異なることが多い。  老衰、病死、焼死、溺死。結末として比較的マシなものから目を覆い背けたくなるような死に方もある。だがそれは所詮かつての世界での話である、もし今の世界の人々がこの死に方について聞けばきっとこう言うであろう。   ーーー大なり小なり、死体が残っているだけ良かったじゃないか、と。 *  平日の午前8時。それは普通でも会社員ならば自分の会社へと行ったり学生ならば学校に通学するなど人の動きが大きい時間帯。それが大きな駅にもなれば人数はより膨大なものになる。だが今日は様子がおかしかった、いやよりはっきりと言えば、  駅は阿鼻叫喚に包まれていた。 「うああああ!!逃げろぉ!!」 「乗客の一人が毒獣(ヴェラン)になったぞぉ!!」 「いやぁぁ!!死にたくないぃ!!!」  さっきまで駅にいた人たちは大声を上げながら全速力でなにかから距離と取るように逃げ始める。その際に他人を転ばせようがどかそうがお構いなし、転ばされた方も怒ることすら時間の無駄とでも言うかのようにすぐに立ち上がり逃げていく。  何が彼ら彼女らをここまでの凶気に陥れたのか、その原因は逃げた人々を追うかのようにゆっくりと歩を進める化け物のせいであった。  その化け物は狼やライオンのような四足歩行にもかかわらず体高だけで3m強は有り、体全体に紫色の濃い粘液を纏わせていた。その化け物は前方に伸びた口で駅員と思われる人物を咥えていたが口の中にある牙は深々と彼の胴体に突き刺さり焼けるような音を静かに鳴らしていた。 「た、頼む………は、離してくれぇ………!!」 『………』  駅員の懇願に対し、当然ではあるが化け物は一切反応はしなかった。しかし次の瞬間彼の体が口から外れ床へと落ちていったのであった。駅員自身もまさか本当に離してもらえるとは思わなかったのか目を大きく見開くもすぐに立ち上がり逃げようとする。しかし今になって気がついた、自分の足の感覚がなくなっていたことに。彼は恐る恐る自分の足を、下半身を見る、そして大きく後悔した。彼の視界に映ったものは、  化け物の粘液によって胴体から溶け千切れた、自分の下半身であった。 「ーーーー……………!!!!」  それに気がついてしまった駅員は言葉にならない絶叫を上げるが、人間が体を真っ二つにされて生きれるはずもなく、苦痛と恐怖に顔を歪め絶命するのであった。  化け物は死に絶えた駅員を路傍の石のごとく自分の後ろ足で蹴り飛ばすとその虚ろな目を逃げていった人々が、次なる獲物がいるであろう方向へと向ける。  だがその時だった。 シャリンシャリンッッ!!  突如化け物の耳に鋭い二重の風切り音が響く。何事かと化け物があたりを見渡すが、誰もいない。しかしすぐに異常は起きる。 「………まさか、私が一番乗りとはね」  突然後ろから歳の若い女性の声が聞こえてきたのだった。当然化け物は声の方向へと向き、襲いかかろうとした、しかしなぜか体が崩れ落ち床に這いつくばってしまう。  このときになって初めて化け物は初めて気がついた、あの風切り音の正体は刃物を振ったことによって生じた音で、  あの一瞬で、自分の四肢すべてを切り裂かれていたことに。
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