待ってなんかあげないからね

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待ってなんかあげないからね

春一番。 春先に吹く南寄りの強風。 だけど三月に入って今日吹いているのは何番目だろう。 あたしはその強風を顔に受けながら 土手の上を自転車をこいでいる。 寒くなったり暖かくなったりするけど 負けないもん。 だってあたしは四月から高校一年生。 花の女子高生と言いたいところだが、 実は落ちたのだ。 第一志望に。 行きたかったなぁ、 あそこのブラスバンド部に入りたかったのに。 トランペット吹きたかったなぁ。 ぐすっと鼻をならす。 だけど負けないもん。 そんなちょっと落ち込んだ気持ちで 今は商店街をとぼとぼと自転車を押して歩いていた。 商店街だからというわけではないけれど。 結構人が歩いているから その人たちを避けながら自転車を走らせるのは 相手に悪いかなと思うし。 そんな時。ふと花屋さんの所で立ち止まった。 何気なく店を見渡すと、 店の外にガチャガチャが置いてあった。 ガチャガチャのカプセルの中には 花の種が入っているという。 あたしは何となくお金を入れて取っ手を回した。 出てきたカプセルの中を開けると 向日葵の種が入っていた。 「へぇ、向日葵の種なんだ」 びっくりして見上げると、 学生服にエプロンをした男の子が 側にいた。 切れ長の目にツーブロックの髪型。 黒髪だけど、染めた事はないのかな? まだ少年っぽい幼さを残した顔立ち。 こ、好み? 「ごめんごめん。ここは俺んちがやってる店で 今はバイト中なんだ。 そのガチャガチャ、俺が置くように言ったんだぜ。 だから嬉しくてさ」 「あ、あの。B高校の人ですか」 「ん?ああそうだよ。 君の制服、この辺の中学の制服だよね。 もしかしてうちに来る?」 「え、あ、はい。そうなんです。 四月から宜しくお願いいたします」 あたしはペコリと頭を下げる。 すると彼は笑って 「おう、よろしくな後輩。 そのガチャ、カプセルの中に 花の種と一緒に花言葉も書いてあるよ。 いい事が書いてあるといいね」 あたしはまたまたペコリと頭を下げて 彼の店を去った。 そしてまた、自転車を押して商店街の 外へと出る。 空いてる駐輪場を見つけて自転車を止め、 カプセルの中の花言葉を読む。 そこには 「あなただけを見つめる」 とあった。 あたしはくすっと笑った。 やだぁ、あたしそんな深窓のお嬢様みたいに 待つタイプじゃないもんね。 この向日葵の花が開くまでに 彼とペアになるんだ。 うん、なるんだ。 こう見えて、あたしは肉食系女子! あたしはそう決心して自転車に乗って 全速力で家へと向かった。 今年の春は楽しいなっと思いながら。 自転車のペダルを漕ぐのだった。              
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