桜花

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桜花

私の髪はまっすぐだ。 そして校則に則ったように黒い。 だが別にそれを気にした事は無い。 人の悪口が好きな人たちからは 市松人形とか言われているけれど、 私は市松人形は可愛いと思っているので 「どうもありがとう」と お礼を言って本を読んだだけだった。 彼女たちは勝手に鼻白んでいたけどね。 私の知ったことではないわ。 私の席は窓際にある。 教室は三階ですぐ下には桜の花が咲いている。 下では、新入生がうろうろしているのが 可愛らしい。 私があの頃はどうだったかしら。 やはり可愛らしかったのかな。 たった一、二歳しか違わなくて。 小学生や中学生の最上学年の時は 年上として、てきぱき行動していたはずなのに 一年生になると、途端に甘えた存在になる。 そう考えるとくすりと笑える。 「あ、笑った。何か面白いことあった」 私はびっくりして顔をあげた。 そこにはクラス一の人気者がいた。 明るい茶髪で顔立ちがよくて 人を笑わせるのが得意な彼。 「なぁなぁ、何が面白かったの」 彼が尋ねてくる。 はて、どう答えるべきであろう。 そうだ! 「花見にと群れつつ人の来るのみぞ あたら桜のとがにはありける」 西行法師の和歌だけど、分かりやすいわよね。 うん、でも今どき和歌なんてメンドクサイ女って 去って行ってくれるといいわね。 「へぇ、和歌じゃん。俺、よく分からないけれど 素敵だね、それじゃお礼に」 そう言って彼は私の耳元にそっと顔を寄せて 「・・・・・・・」 私は顔が真っ赤になった。 「なぁ、今度お勧めの本があったら教えてよ。 そして返事を聞かせろよな」 そう言って彼は去っていった。 私は真っ赤になった顔を隠すように俯いた。 私のまっすぐな黒髪が表情を隠してくれる。 そして彼の行った言葉を反芻する。 『春霞たなびく山の桜花見れどもあかぬ君にもあるかな』 了
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