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◇◇◇
僕がその女の子に会ったのは7年前。
もうここからは見えなくなっちゃったけど、僕が来た青灰色の山の麓の小さな小川のそばだった。
僕はその頃すでに羊飼いをしていて、その日も今日のように温かかった。10頭ばかりの僕の羊が川沿いの草をもさもさと食んでいる時に、突然その女の子が現れた。
薄い淡い色の布を何枚も重ねたような不思議な服。フワフワした淡い色の髪の毛。驚きに満ちた少し大きな目でキョロキョロと辺りを見回し、つややかな唇が不安そうに震えていた。
「君は誰? どこから来たの?」
声をかけるとその女の子は驚いた顔でこちらを向いて、それからほっと息をついた。羊の影で僕が見えなかったようだ。太陽があたってふかふかもこもこの羊の背中を間に挟んで僕と女の子は話をする。
「わかんない。私、どうしてここにいるのかしら。さっきまでお庭にいたはずなの」
こんな豪華な格好の女の子を見るのは初めてだった。どこか遠くから来たのだろうとは思うのだけど、迷子なのかな。
女の子はまたあたりを見回し、小川に目を留めた。僕の羊が何頭か水を飲んでいる。でも女の子が見ているのはそのさらに先の暗い森のようだった。
「わたし、あっちに行かないといけない気がするの」
「それは止めたほうがいいよ」
この小川が隔てる先は魔女の足元、魔女の領土。少しの川原の奥には黒い森が広がり、その奥には魔女の居城があると聞く。誰も安易に立ち入ってはいけない魔女の帝国。でも女の子はにこりと笑ってこう言った。
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