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「魔女なら大丈夫。みんな私の誕生日を祝ってくれたわ。お友達よ」
そんなことがあるのかな。魔女というのは魔法の理に触れて世界を動かす者。そんな者が人を祝うなんて。
「君にはわからないと思うけど、魔女というのは色々な種類がいる。いい人と悪い人がいるように、いい魔女も悪い魔女も。けれども魔女は等しく世界と同じ。だから安易にかかわらないほうがいい」
「この先にいる魔女は悪い魔女なの?」
「この先の魔女はちょうど中間かな。もらったものと同じものを相手に返す衡平な魔女。名前は茨」
「それならきっと大丈夫。お父様はこの国の魔女はみんな私のお友達と言ってくれたの」
その子は自信満々にもう1度言って、にこりと笑って靴と靴下を脱いで両手に持って、暖かな陽の光をきらきらと穏やかに照り返す川をちゃぷちゃぷと歩き、そして対岸に一歩足をのせた瞬間、地面から突然生え伸びた黒く尖った茨に囚われ姿を消した。
それはあまりに一瞬のことで、僕には何が起こっているのかさっぱりわからなかった。
あの子は全く痕跡を残さず消え失せた。まるで最初からそこに何もいなかったように。でも僕の隣の羊がメェと鳴いた。僕は確かにさっきまでこの羊を挟んであの子と話をしていたはずだ。
さっきあの子を掴んだ茨はあまりにも凶悪で強大だった。多分あのあの子は茨の魔女と何かの関係があったのだろう。
世界の魔法は関わりのあるもの同士を近づける。あの子はなぜ自分がここにいたかよくわからないようだったけど、きっと世界があの子を魔女に合わせるために連れてきたんだろう。でもさっきの茨の暴力的な様子からその関係はあまり良くないもののように感じた。このままでは、きっとあのあの子に悪いことが起こる。
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