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僕はあの子にすっかり恋をしていた。だからじゃぶじゃぶと急いで川を渡った。けれども何も起きなかった。茨も出てこない。ただ僕がいた対岸と同じ静かな川原と、その奥に何も言わない茨の森が広がっていた。
僕と魔女は関わりがない。つまり僕が魔女に招かれることはない。だから僕が魔女に会いにいかないといけない。
なんとなく、魔女に会いにいけば戻れないだろう。そんな気がした。
だから一旦川向うに戻って羊を全て開放してから再び川を渡り、その先の茨の森へ分け入った。茨は皮膚を鋭く掻き、歩を進める度に僕を血に染める。でもこの痛みは支払わなければならない。魔女と出会う対価として。
どのくらい歩いただろうか、茨に覆われた冷たい白亜の城が現れた。これが噂の魔女の居城。
覚悟を決めてその門前に立つと、門はゆっくりとその内に開かれた。恐る恐る様子を伺いながら入ると、そこには1人の魔女がいた。魔女はすらりと背が高く、静かな目で僕を見下ろした。
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