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その後、魔女はあの子の国に、あの子は16歳のときに糸車に刺されて眠りにつくと宣言した。その国は恐慌に陥り国中の糸車が焼かれた。あの子が16歳になる前月、糸車がないか改めて国中が探索され、国に入る荷車は全て検閲された。
僕はそんな街に入り、城を見上げた。荊の魔女の居城から吹いてくる強い風が丘を下ってこの町に吹き続けている。僕と繋がる世界の真理も時が間も無く満ちると告げている。
僕は今日このためにここにいる。
その夜、魔女は僕のために老婆の姿で尖塔に現れ、糸車を用意した。そうでなければ魔女は対価にあの子を刈り取らなければならなかったから。
世界が導きあの子は塔を登る。既に約束された通り、糸車の針に触れてその血が世界を経由して僕に伝い、茨の種が発芽する。
茨の種は僕の血管を通して胎内を駆け巡り、次々に僕の皮膚を破ってその蔦を伸ばして城を包む。痛い。けれどもこの棘の1つ1つがあのあの子をこの世界に繋ぎ止める杭に、軛になる。
ぞりぞりと僕を削りながら伸びる茨の蔦はその反動で僕を地中深くに押し込め、その代わりにあの子を守るように城を包む。その蔦は宝石のように光を帯びた新芽のような黄緑色で、魔女の魔法はとても美しかった。
その美しさとは対極的に、僕は冷たい地中に横たわる。魔女の言葉を思い出す。美しい草木でも根は須く節くれ茶色で、固く冷たく動かない。その花を愛でて摘み取るのは他の誰かだ。僕は親切な魔女にそれでもいいと言った。
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