1. ……l&

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1. ……l&

「――さみしさなんて」  部屋の扉に背を付け体育座りの姿勢で水道水の入ったペットボトルをギターのように指で弾きながら歌う声が、日の差さない真っ暗な部屋に溶けた。 「覚えていないと苦笑いに そっと隠した」  亡名(モナ)。彼女の名前。  で両親を失い、親戚の家をたらいまわしにされ18年間疎まれ、いびられながら育った。大学生になって一人暮らしを始めてすぐ、亡名を親戚家族から写真を添えてメールが届いた。 「灰色に暮れた 冷たい街を歩く 午後4時44分 迷信信じない」  空っぽになった亡名の部屋の写真の下に、あの時お前も死んでいれば良かったのに、という羅列がスマートフォンの液晶に鈍く光る。 「たった3つの数字の羅列は それでも僕を蝕んだ 嗚呼 痛いな 抱きしめる 身体はとても 華奢に過ぎた」  歌声は次第に掠れ、ペットボトル中の水面が静かになる。 「会いたい 自分が待ってるのに 意地悪な扉は僕を責める 鍵閉めた 缶ビールは 留守番 いつものまま ただ水で呑み込む涙」  ショートカットの黒髪に流星群のように奔る白がふわりと舞った。  プラスチック製のギターは壁に当たって地面に落ち、キャップが外れたペットボトルから床に水が零れ落ちる。フローリングに出来た黒く透明な水たまりに、亡名が映った。 「……何が、ヒーローだ」
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