第二章

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第二章

「嫌やわ!これって卵と違うのん⁉ 卵が割れてるやん!・・何で? 気持ち悪いな・・」 家内が「気持ち悪い」と表現したのは当然だろう。私も一目で恐怖を感じたからである。 いま私が立っているところは二階の階段踊り場である。 確かにこの階段の一階上がり口は駐車場の延長上にあるが、門扉によって駐車場と住居とは仕切られているのである。 それはウズラの卵をさらに小さくしたような大きさのもの三ツ横一列に並べられ、しかも全ての殻が二つ三つに割られ、中の黄身が土間に晒されている。その様がとても不気味に感じられたのだ。 「誰やろかこんな面倒くさいことするの⁉ 気味が悪いよね・・下の門扉を開けてやで、わざわざこの踊り場まで卵を抱えて上がって来たかと思うと・・想像しただけでも怖いわ!」 「いや、これはツバメやで⁉ ツバメの卵やで! ワシは車から脚立(きゃたつ)持ってくるから、お前は手鏡用意してくれ!」  私たちが生活している二階居室に上がって来るには一階駐車場から階段通路を利用するしかない。またその階段の一段目には、足元から下半分に人の背丈ほどの門扉が施されている。 その門扉の真上であろう垂れ壁の内側に一か所、階段を上がり始めて中程にも一か所、されにもう一か所が上がり切った階段踊り場と云うことで、合計三か所にわたってツバメの巣が造られている。 産卵時期が重なったりすると、雛に給餌のために飛来する親鳥と接触することも珍しくはない。 屋内で在りながら、外部とも繋がるこの階段通路は、羽根を持つ鳥類であれば全くの開放状態と言っていいだろう。たとえ門扉が閉まっていたとしてもと云うことだ。 その環境が天敵から巣を守るための彼らにとっては好都合だったのかもしれない。 そう考えれば、ここ数年でいつの間にか巣の数が三世帯に増えてしまったのも頷けるのである。  家内と話しているときでも、卵を温め続けていた親鳥が、私が脚立を担いで来たのを見るや、巣を後にして外に向かって飛びだしてしまった。何処へ行くでも無い、心配しなくても私が階段から離れるまで上空で旋回を続けているのである。 「今のうちや!」 私は組み立てた脚立の二段目に足を掛けた。 「ウ~ン、ここには四つ有るな、また一つ増えとるやないか⁉」 「えっつ、どういうこと?」 「ウンこの間、『親鳥が卵を抱いてるみたいや』ってワシが言うたことあるやろ⁉ あの後、親鳥が留守した隙に脚立に登ってデジカメで写真撮ったんや、あの時は確か卵が三つ有ったもんな。」 「それやったら、他の巣と違う?」 「脚立持って来るのん早かったかもな⁉」  そう呟きながら私は階段途中に造られている巣に眼をやった。 こちらの巣は階段を上がって来るときは、粘土で作られた巣の底部分しか見えないが、降りはじめは巣の全景を見下ろすことが出来るのである。だが近づくにつれ足元も比例して下がるため、肉眼で覗くことは難しい。 「お母さん、その手鏡貸して・・」
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