第三章

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第三章

 私は巣の傍に近づき、腕を真上に伸ばして右手に握られた鏡の角度を調整し巣の中を確認した。 だがその鏡に卵は映っていなかった。 そう言えば、踊り場の親鳥たちは居室への出入りで私が近づいても飛び立とうとはしなかったが、この階段途中の親鳥は家主の私の方が遠慮してしまうほど、私と顔を合わす度に外へ飛び立ってしまうのである。そう云えば、脚立を取に階段を下りて行く時は、既に親鳥の姿は無かったことを思い出した。 「ここの巣の中には卵は見当たらんな、そやけどそもそもここで卵を抱いている様子も見たこと無いからな・・何とも言えんな。」 「お父さんオカシイ思えへん、もしここの通路のツバメの卵と違うとしたら・・やっぱり誰かが外から持って上がって来たんやで、せやけどなんでこんなに規則正しく三つに並べたんやろ?・・こんなこと、人間しか出来ひんて⁉」 「それは無いと思うで、なにせ入り口の巣から脱走したチビを、お隣のご主人さんが両の手の中に包んで『これ、お宅の(ひな)と違いますか?』って大事そうに持って来てくれたくらいやもん、このご近所の人やったらみんな目を細めてツバメを見守ってくれてるはずやろ、だから人間の仕業とはワシは思いたくは無いんや。」 と言っては見たものの家内の推理を否定できるような根拠は今のところは発見できなかった。だからと云って自分が嫌がらせを受けるような人間であることも認めたくないのが本音である。 「それやったら誰? 誰がこんな事したと思うのん?まさかカラスが口に銜えて(くわえて)わざわざ一列に並べて置いて割ったんやろか?」 「それや!ワシはカラスが犯人やないかと考えるんや、お前は何でカラスやて思たんや?」 「何でか知らんけど、ふとそう思ただけ、それだけや!」
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