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第四章
そんな経緯から今朝はカラスの行動を観察することにした。早起きしたと云うのはそのためである。
一昨日の夜、私は夜の十時に居室に戻った。その際の踊り場には異常は見られなかった。
しかし事件を発見したのはその翌朝の九時前である。
もし羽根の無い人間の仕業とすれば、踏み台を用意しなければおよそ手が届きそうもない。扉一つ、壁一枚の間仕切り住宅で、もし階段を上り降りし踏み台をセットすれば神経質な私ならきっと気づいたであろうに。ましてや防犯カメラが動作するはずである。
私は、駐車場に止めてある仕事で使っているトラックの運転席で監視することにした。
「あ~ぁ目の奥が痛いなぁ、寝不足のせいかも知れへん、ホント緑寿ともなると早起きはキツイわ。
ましてや今だに家賃滞納を続けているツバメ達のために・・なんて云うのは建前の話で!ホントのところ誰をターゲットにした悪ふざけなのか・・その真相を見つけるための、つまりは自分のための早起きだったのかも知れない。」
「おっと!カラスの奴、来やがったな・・えっ沢山居るやん⁉ ヒーフーミー・・五羽か、いや七羽もや、あいつら府道を占有して我が物顔で歩いとる。まるでヒチコックのザ・バードみたいや、そらぁこの時間帯じゃ車など殆ど走らんもんな・・お前ら空飛ばんのかい⁉ ホンマ横着な奴らや。」
気が付くとすっかり夜が明けていた。どうやらカラスに私の存在を気づかれてしまったのか、そのカラスたちグループはウチの駐車場に近づくものの階段入り口の門扉のところにはやって来ない。
と、ちょうどその時である。その群れとは別に一羽のそれも大きなカラスがどこからともなく舞い降りて来た。門扉の前だ。
入り口の巣と、中ほどの巣は現在空っぽだが、踊り場の巣では親鳥が卵を温めている真っ最中だ。
「来やがったな、こいつか犯人は⁉」
私は車の中とは言え、奴に気づかれないようにと、息をひそめ無駄な身体の動きを止めていた。というか硬直してしまっていたのだ。五秒が経ち十秒が過ぎた、時計を見ていたのではない、心の中で数を刻んでいたのだ。ちょうど二十を数える辺りだった、奴は羽根を大きく広げた。
その大きさは90センチ?いや1メートルは有るだろ。
成鳥のカラスが翼を広げているのを目の当たりにしたのはこれが初めてだ。
「いよいよ舞い上がるつもりやな⁉ よっしゃ!どうせお前の目的はツバメやろ、昨日で味占めたもんな⁉」
私は反射的に車内のドアノブに手を掛けていた。後はそれを引っ張ればドアは開く。
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