第五章

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第五章

 しかし・・私は車から飛び出すことを躊躇した。その先の奴の行動が私の思いと違ったからだ。 奴は羽根を広げたままで180度方向転換すると門扉を背にして、走り出したホップ・ステップ・ジャンプと、まるでそれを楽しむかのように、二度繰り返した。 すると、申し合わせていたかのように今度はかなり小柄なカラスが奴の傍に舞い降りてきた。その二羽のカラスは駐車場のアスファルトに何かを見つけたのか、やたら啄ばみ(ついばみ)始めた。 「どこかで見たことの有るその光景だ・・あっそうや!コンビニの駐車場でアスファルトをつついては、ひたすら速足で移動するハクセキレイや!あれと一緒や、でもうちの駐車場には食べるものなんて落ちてるはずも無いのに?・・もしかしたら内緒話のカモフラージュかも⁉ 奴ら何か企んでるに違いない!」 と、私が車中で独り言を囁き終わった時だった、大きい方のカラスが再び翼を広げたかと思うといきなり階段通路に向かってお尻を振り振り走り出した、助走だ!奴は助走しないと舞い上がることが出来ないんだ。 もう迷うことはない私は運転席を飛び出した。今となってはツバメの卵を守るためだ。 羽ばたいた奴の身体が宙に舞い始めた。そう飛行機が離陸する、まるであのままである。右手向こうから階段通路に向かってる・・私も急いで階段通路に向かった。この僅かな時間なのに、色んな矛盾が私の頭の中で騒めいていた。 「あの粘土で造られたツバメの巣なんか、あんなにデカい奴が乗ったらその時点で崩れてしまうんちゃうの?」 「そやのにカラスはツバメのようなホバリングも出来ない状況でどうして巣を壊さずに卵だけを盗むことが出来たんやろ?」 「折角盗んだ卵やのに何でその場で丸飲みせずにわざわざ踊り場に叩きつけて・・しかも横一列になんか並べたんやろ?」 「その前にである、そもそも広げれば1メートルもある翼を、間口90センチの階段通路にどうして侵入出来たんやろか?」  その答えはこの直後のワンシーンで証明されていたのかも知れない。  奴は階段通路には突入しなかった。その手前の門扉の上に止まったのである。両足でしっかりとアルミ製冊子の上枠を捉えていた。その直後180度方向転換し階段を背にしたかと思うとかなり小柄なカラスに向かって一声!「カーゥア」と鳴いたのである。 「なんや、階段通路の中に入らへんのかい⁉」 私は門扉の少し前で立ち止まり、そのまま様子を見ることにした。 「カーゥア」の一声に反応しただろうか、先ほど残されていたかなり小柄なカラスも奴を真似るかようにその小さな翼を広げながら走り始めた。 お尻振り振りした小さな後姿がとても可愛い。その様はまるでオムツを穿いたヨチヨチ歩きの赤ちゃんのようである。これも助走だろう。 「上がれ・・そらもっと翼を漕げ! そうや頑張れ!」
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