第六章

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第六章

 私はいつの間にかそのかなり小柄なカラスを応援していた。 その甲斐あってか実に上手く舞い上がった。その後その小柄なカラスも、既に門扉の上に止まっていた大きいカラスに並ぶように止まった。 よくよく考えれば、そりゃ駐車場に舞い降りて来たんだから飛べない筈は無い! 私って馬鹿だよね!ウチのツバメ家族だって巣立ち直後の幼鳥にはよくホバーリングの訓練なんかしていたもんでね、だからなのか小柄な奴のあんなのを見るとつい応援してしまうのである。 「ご苦労さんでした・・少し早いけど、もう朝ご飯出来てるから」 「うん・・ホンマ腹減った!」 「それでどうやった、犯人分かったの?」 「そんなん、昨日の今日やで、二日続けて来る馬鹿なんて居らんわな・・」 「そない言うけど、お父さんが自分から早起きして行ったんでしょ⁉」  何事もなく終わってみればそう考えるのが正しいかも知れない。だがもし続けて同じ事件が起こったと想像すれば、これはこれで空振りで終わったとしても私なりに納得出来るところである。 「ワシ思うたけどな・・犯人はカラスや無いみたいやな。カラスて羽根を広げたらあんなに大きいとは思わんかったんや・・あれではどう考えてもいきなり階段通路には入ってこられんのや⁉」 「お父さんて朝からそんなに沢山なこと勉強して来たんやね⁉・・でもカラスと違うんやったらやっぱり人間の仕業なん?」 「分からん・・」 私たちが食事をしながらこんなに多くの会話をしたのは、どれくらい前だろうか?・・」 「お父さん、店開けるまで時間有るんやったらチビちゃんの餌捕りに行く?」 「そやな・・今日は夕方は止めて朝から行ってこうか?」 チビちゃんとは・・数日前に階段入り口の巣から3度の脱走を試みたツバメの雛のことである。 正しくは、小さな巣に七羽のひなが育つ中、夫々が身体の成長することで小さい雛は押し出されてしまったのである。何度か私が巣に返したものの、他の雛は順に巣立ったと云うのに一羽だけ残されてしまったと言うことだ。その後、チビの親鳥は新たなカップルの侵入による階段通路の覇権争いに巻き込まれ、そのうちついに育児放棄をしてしまったのである。  私は農水省に電話相談を試みたが、『可哀そうだが捨て置いてくれ』と無情な・・でもそれが自然の原理原則なんだと言うことも聞かされた。 と云う訳でツバメは生きた昆虫しか食しないと言うことを訊き、近隣の公園迄、虫取り網を持参しては昆虫狩りをしているのが私の近況となった。
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