他人事から自分事

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「チラシ配りってメンタルやられるな」  高木くんが両手をこすり合わせた。 「うん。この世界の人全員からシカトされてるみたい」  今にも雪が降りそうな灰色の空に、絵麻は白い息を吐いた。どんなに頭を下げても通行人からは無視されるばかりだ。簡単そうに見えた仕事がこんなにも辛いとは――。  人の辛さというのは、自分が味わう前までは他人事なのだ。そう、すべては他人事。 「はぁーあ。みんな他人事なんだよね」  絵麻はぼやいた。 「自分事に思ってくれたらいいのにな。はは」  高木くんは黒いマフラーに首をうずめた。 「自分事ね。それは言えてる」  フフッと笑ったとき、 そっか――絵麻の頭の中で何かが発酵しはじめた。  自分事に思ってもらえればいいのか。 だったら――
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