はちが書店の花束

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やがて、卒業式がやって来た。  グランドを囲う桜の木が、風に揺れて春を描いている。高校生活最後に歌う校歌は、胸に切ない旋律を鳴らし続けた。  ホームルームが終わったあと、影山くんから屋上に呼び出された。  ――何だろう。  卒業証書の入った筒を持ったまま、絵麻は屋上に続く階段を登った。ドアを開けると、青空の下に銀フレームの眼鏡を光らせる影山くんの姿があった。 彼の足元には、なぜか花束があった。 「なに?」  絵麻は一歩ずつ彼のもとへ近寄る。春風が絵麻の前髪を揺らした。 「これを受け取ってほしい」  影山くんは何かを胸の前に差し出した。 「なによ、これ」  それは黒いゴーグルと手袋だった。
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