閉店のお知らせ

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はちが書店は絵麻にとって体の一部だった。支持機能をつかさどる背骨のように、毎日の生活を支えてくれるものだった。  どんな辛い日も、この本屋に眠る無数の物語と言葉によって、絵麻の心は光を取り戻し、不器用な息つぎを繰り返しながらも、暗い青春の海を渡ってきた。 「じゃあ、わたしが守る」  絵麻は語気を強くしていった。 「何いってるのよ、絵麻ちゃん。最近はみんな通販やら電子書籍でしょ。こんな商店街にある、こんなボロい本屋で本を買う人なんていないのさ」  セッちゃんの顔に諦めと(うれ)いがにじんだ。  絵麻は胸を上下させ呼吸を整えると、まっすぐとセッちゃんの瞳を見つめた。 「絶対にお客をつれてくるから」  絵麻の心に揺るぎない決意が燃えさかった。  
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