マスコットキャラクター作戦

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本の匂いが好きだ。  本屋の匂いが好きだ。  はちが書店が吸っては吐いてきた言葉の宝石の匂いがたまらなく好きだ。 商店街の一角にたたずむ小さな書店。  表に並んだ週刊誌も、小さな絵本が丸る青いラックも、好奇心にあふれた漫画コーナーも、すべてが誰かの心のパートナーとなる日を待ちわびている。    三月末までに、必ず成果を上げて見せる。絵麻はセッちゃんに約束をすると、さっそく集客のための戦略を考えた。  だが、すぐに壁にぶつかった。しょせんは経営の素人だ。ネットで調べたランチェスター戦略やらクラウドファンディグとやらは、SF映画のように浮世離れに感じてしまった。  そうだ。まずは基本的なことから始めよう。チラシを作ろう。それを配ろう。呼び込みをしよう。スタンプカードなんかどうだろう。  絵麻は思いつく限りを大学ノートに書きなぐっていった。しかし、すぐに手は止まってしまう。扉はどんなに押しても動かない。  何時間も奮闘していると、妹の有紗(ありさ)が帰宅した。
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