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「明日はマックがいいねー。てりたま食べたい。」
「それな。じゃあマック期待してる。」
ルリ子と寝るのは楽だ。セックスもしなくていいし、腕枕やハグの必要もない。セミダブルのベッドで、お互い身体が触れあうこともなく、ただ眠る。肩がこらないし、変なところの筋も傷めない。
「鏡ちゃん今度はいつまでここにいるの?」
「目途が立ってないんだよなー、それが。」
鏡太郎としては随分軽い気持ちで口にしたそれだった。それなのに、真上を向いて寝ていたルリ子が、ぐるん、と首を鏡太郎の方にめぐらした。いきなり、からくり人形みたいに。
「だめだよ、それは。」
思ってもいなかった反応に驚いた鏡太郎は、完全に素の口調で、え、なんで、と訊きかえした。
確かにこれまでは、ルリ子の家に泊まるときはいつでも次の行き先の目途はあった。次の女があと三日もあれば転がせる、とか、喧嘩した女の機嫌を取るのに多分二日はかかる、とか。
けれどこんなにくっきりと滞在を拒まれるとは思ってもみなかった。
「だめに決まってるじゃん。だってルリ子だって、うるさい女みたいになるかもよ。」
「ならないだろ、あんたは。」
「今はね。だって鏡ちゃん、そういう女、嫌いじゃない。」
突如としてあやしくなる雲行き。鏡太郎はなんとなく息を潜めたまま、正面から真っ直ぐ自分を見つめて来るルリ子の視線から目を逸らした。
「あんた、俺が好きなの?」
問えばルリ子は馬鹿にしたように鼻で笑った。
「まさか。」
「だったら、別に……。」
「でも、一人は寂しいじゃん。」
「寂しいか?」
「寂しいよ。だから鏡ちゃんだって女の家ふらふらしてるんでしょ。」
そう言われて、鏡太郎は曖昧に首をひねって無言を貫いた。
寂しいから女の家をふらふらしている自覚はなかった。単純に家と金がないからふらふらしているだけで。
「でもね、どんなにふらふらしたって、どこにもいないのよ。」
「誰が?」
「鏡ちゃんが、好きな人。」
すぱっと空気を切るような小気味いいルリ子の物言いは、鏡太郎の脳裏にくっきりと茜の面影を思い出させた。最初で最後のセックス。ずっと笑っていた茜。
「……わかってるよ。」
「わかってないよ。」
「わかってる。」
「わかってない。」
いつもさらりとしていて、鏡太郎のことなんてどうでもいいような素振りをするルリ子が、今日は鏡太郎を離そうとしない。
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