寄り添う君の猫でありたい

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「にゃあ」 黒と白の長毛の僕は、前にぬいぐるみのようだと主人に撫でくり回された事がある。 どうやら僕はペルシャ猫とかいうやつらしい。撫でくり回されるのは僕の猫生の中であまり得意な方ではないが、時にそれを恋しく思う時があるのだ。 「にゃあ…」 「だから後にしてって…今は…」 二回鳴くと主人は苛立たしげに僕を手で払い除ける仕草をする。 僕が撫でくり回されるのを恋しく思うのは、決まってこういう時だ。僕を撫で回す時の主人は心底幸せそうに笑うから、僕はそれを見ていたい。腑抜けた笑顔だとも思うけど、僕はそれが嫌いじゃないよ。落ち着かないんだ、主人の落ち込んだ姿は。そんな弱々しい声は。 僕は元々野良猫で、人間の行動なんてあまり気にしたことは無かった。 餌をくれる人間の顔だけを覚えて生活をしていた。特に感情もなく。頭は餌のことばかり。当然だろう。いつ自分のゴハンが確保出来なくなっても何も不思議じゃない世界。確かに得られるゴハンなんて存在しない世界の中で生き抜いてきたんだ。生きるために必死だった。 だけど、今は違う。ゴハンをくれるから主人の顔を覚えてるわけじゃない。主人の笑顔を恋しく思う感情が芽生えている。人間の笑顔を恋しく思う日が来るとは思わなかった。 必死に生きる必要も無い、人間が僕を生かそうとしてくれるから。
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