妙案

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妙案

しばらく、フィアンマ劇団はこれまでにない客入りだった。ルル、リリ、そしてハットの3名をうまく組み込んだこれまでより幅のある演目を公演できたからだった。しかし、それでもやはり途中で、役者不足の課題にぶち当たった。個々の才能に問題はなくとも、大勢が舞台上で演技をしたり踊ったりといった迫力のある場面を入れることができなかったからだ。演劇を5日間飽きずにみにきてもらうためには濃淡が大事だった。しかし今使える濃淡は、人による色の違いだけで、人数や大きなセット、仕掛けを用いた表現が難しく、度々5日目の客入りが悪くなった。 「正直に言ってハット。もっと役者がほしい?」 ハットは黙って頷いた。 「あんたも分かってると思うが、役者が少ないせいで舞台上ががらんとして見える。時々、役者以外の団員にちょっとした役を与えて出しているが、そもそも、それぞれの団員の持つ仕事に余剰人数がほとんどないからそれも毎回は厳しい。」 「…つまり、きちんとした役者が欲しいのは当たり前だけど、とりあえずエキストラでもなんでも、数が欲しいのね。その人たちに教えることができればできる演出が増える、そういうことね?」 「まあそうだ。」 アリアは考える。そして近頃、自分の中で考えていた案を実行する時が来たのではないかという思いに至る。 「ねえ…街の人をつかうの…どう思う?」 「どういうことだ?」 「ボランティアを雇うのよ。」 「そんな余裕はないだろう…。」 「ないわ。だから、かけよ。それにね、私たちが払ったお金で、少しでもその街の貧困がなくなれば…そこに意味はあるでしょう?」 アリアはおそらく、ルルのことを思って言っていた。街街を巡り歩くとわかるが、どこも貧困と隣り合わせだった。貧困に起こる悲劇をなくしたい、思いは立派だが、身を切る決断だ。かけというが、上手くいく保証はあまりない。今ですら、次の月の支払いがギリギリの日々だ。しかしハットは、とめなかった。 「よし。やってみよう。」 「ただ、確かに今はお金がないから…そうね、最初は公演をタダで見てもらえることにして…様子を見てみましょう。」
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