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演劇スタッフ募集。 1人、2人、希望者が現れた。一気に増えることは予想してなかったが、なかなか人集めは難しかった。そもそも、演劇に興味を持ってくれる人が多くない。見るのはいいが、関わりたくない。そんな雰囲気を出された。だからアリアは、子供を集めることにした。食べ物を少し与える代わりに、宣伝チラシを配らせた。これは受けた。しかし子供ばかりでは意味がない。大人の、しかもエキストラのできそうな人々に来て欲しかった。 ある街で、ハットはジョットを連れて墓に出向いた。2日ほど墓を散策した彼は、次の日アリアの前に5人のエキストラを連れてきた。 「貴方が採用したの?」 「そうだ。」 「そう…それじゃ、貴方に任せるわ。」 アリアは5人を横目に見ながら言う。普通の人とは言えないような雰囲気だ。しかしハットなりに考えがあるのだろうとアリアは納得し、任せることにした。この5人を、公演に出してみると、少し流れが変わった。街の人を舞台にあげたらしいと言う噂がでる。そしてその噂を聞いて、若者が自分も出てみたいと1人現れた。彼に簡単な役を与え、ハットは指導し、次の日の公演にだした。その若者を見た街の人が、やはり街のものが出ているとまた噂をする。そして、その噂に興味を持った街の新聞が、取材にきた。 「どうして、街の人を舞台に上げるんですか?」 「私はこの劇団を、みんなで作り上げたいんです。移動芝居は、劇場を持ちません。だからあらゆる街に行くことができ、あらゆる街の人々と触れ合うことができる。その出会いはどれも皆違います。出会いの数だけ公演があり、舞台があり、劇があります。」 「つまり、同じ演目でも街によって演出を変えているんですね。」 「平たく言えばそうです。でも根本的に考え方が違います。舞台を作るのは私たち劇団員だけではありません。演じるものと見るもの、両者がいて初めて、演劇は成り立ちます。見るもののいない演劇は演劇としては不完全です。白痴のおしゃべり同然、舞台上でいくら喚いても、受け取る相手のいない言葉は虚しく消えるだけ…だから、より多くの人が演劇に携わることのできる工夫をしたんです。どんな形であれ、携わって貰えば、知ってもらうことができる。興味を持ってもらえる。そしてきっと、見にきてもらえる。」 年若い女座長の達観した物言いに、心打たれた新聞記者は次の日彼女のことを記事にした。そして、急に、フィアンマ劇団のチケットが完売した。アリアは新聞にここまで影響力があるとは正直思ってもみなかった。 結果として、アリアの策略はうまくいった。 これまで見向きもされなかったフィアンマ劇団は、街に寄り添う劇団と言われ始めた。完売したチケットのお金でわずかに給金を出して人を雇うと、街街にお金を落とし、雇用を運ぶ劇団として引っ張りだこになっていった。
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