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「どうだい川村さん。そろそろ仕事には慣れたかな?」 「は、はい部長! 部長と先輩方の熱心な指導のおかげでなんとかやれてます! ……あ、部長次なに飲まれます?」 「はっはっは。よかったよかった。じゃあハイボールを貰おうかな」 「すいませーん! ハイボールひとつお願いします!」  私は近くにいた店員に声をかける。店員は「かしこまりやした~!」と元気のいい声を出して裏に消えていった。  今日は私がこの会社に入社して初めての忘年会だ。居酒屋をまるまる貸し切って営業部の社員全員が参加している。貸し切りの飲み会という規模の大きさに社会人の力を感じた。 「よ、飲んでるか?」 「あ、清水先輩。飲んでます!」 「よしよし。でも後輩としてしっかり動いてんじゃん。えらいぞ」  社歴がふたつ上の清水先輩は歯を見せて笑った。  その表情はまさに「笑顔!」という感じでとても愛らしく、普段の真剣な表情とのギャップに社内の全員がやられている。もちろん私も例外ではない。これだけイケメンで仕事もできて、上にも下にも気遣いができるというのだから敵わない。憧れの先輩だ。 「ま、気を遣うのも大事だけど、自分が楽しむことも忘れんなよ。川村だって一年頑張ってきたんだからさ」 「はい、ありがとうございます」  私が他の先輩たちのグラスをじっと見張ってたのがバレていたのだろう。先輩の視野の広さにはいつも驚かされる。 「さてじゃあそろそろだ」 「え、なにがそろそろなんですか?」 「ああ、川村は初めてだもんな。二次会だよ、二次会。でもまあ移動しないから第二部ってとこ?」 「この店で二次会もするんですね」 「せっかく貸し切ってるからねえ。社会ってすごいでしょ」  先輩の言葉に私は大きく何度も頷いた。それを見て先輩はまた笑う。 「じゃあここで社会人一年生の川村さんにクイズです。忘年会の二次会といえばなんでしょう」 「二次会ですか?」  私がパッと思いつく二次会といえば、あれくらいなんだけど。 「カラオケ、とか?」 「おー正解! 社会人になってもみんなカラオケは好きなんだよねえ」 「え、ここでカラオケするんですか?」 「そうそう。もう手配しといたから」  清水先輩はそう言って親指を立てた。いつの間に手配なんてしたのだろう。流石だ。 「お、来たみたいだ」    店の扉が開く。冷たい風がすっと流れた。  もしかしてカラオケ機材が用意されてるのかな。やっぱり社会ってすごいなあ。 「こんばんは。からおけねこです」 「なんか変なの来たんですけど」  
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