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「へんなのじゃありません。ねこは『からおけねこ』です」  私の声が聞こえたのか、扉からすっと入ってくる二足歩行の猫型の何かは言った。しかも結構でかい。私と同じくらいの身長だから、160㎝くらいだろうか。 「ねこなんだ……」 「はい。ねこはねこです」  自分で自分のことを「正直者」と言う人を信じてはいけないと言うが、自分で自分のことを「ねこ」と言う白くてつるんとした何かは信じてもいいのかな。 「あ、からおけねこさん! こちらです!」  清水先輩が手を挙げて、からおけねこを座敷に呼ぶ。からおけねこは持参したウェットティッシュで足の裏を丁寧に拭いてから座敷に上がった。 「先輩、これなんですか?」 「あ、川村はからおけねこ使ったことない?」 「ないですよ。新型のカラオケ機材みたいなもんですか?」 「きざいじゃありません。ねこはねこです」 「きみはちょっと静かにしてて」  私が言うと、からおけねこは黙った。言うことは聞いてくれるらしい。 「まあでも簡単に言えばそんな感じだ。からおけねこを呼べばいつでもどこでもカラオケができる。社会人の飲み会には必須だから覚えといたほうがいいぞ」 「てか歩いて来ましたよね? 喋ってるし」 「うん。自立歩行型おしゃべりカラオケロボットと思っててくれ」  いやそんな簡単に受け入れられないんですが。しかし目の前の光景は、私に否が応でも現実を突き付けてくる。   「まあ普通のカラオケとほとんど変わらないよ。見てて」  清水先輩はからおけねこからリモコンとマイクを受け取って、業務の女性社員に渡す。彼女は慣れた手付きでリモコンに触れて、そのセンサー部をからおけねこに向けた。  
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