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「じゅしんしました。きょくのさいせいをはじめます」
からおけねこはそう言ったかと思えば、ゆっくりと口を開ける。そして少し待つと、今流行っているアイドルの新曲のメロディが流れてきた。
女性社員はマイクのスイッチを入れる。いつの間に持っていたのか、からおけねこは両手でタブレットを構えていた。その画面には今流れている曲のミュージックビデオと歌詞が映っている。
女性社員が可愛らしい声で歌い始めた。
「……なるほど。カラオケだ」
「もちろんです。ねこは『からおけねこ』なので、からおけができます」
「え、曲流しながら喋れるの⁉」
「からおけねこはすぴーかーをふくすうとうさいしているので、きょくをさいせいしながらはなせます」
「やっぱロボットじゃん」
「いいえ。ねこはねこです」
「わかったよ」
正直もうどっちでもいいや。カラオケのおかげで場がとても盛り上がっているのだから。やっぱり音楽の力はすごい。
特に彼女が歌詞に時折出てくる「好きだよ」を歌うたび、係長と課長が手を叩いて嬉しそうに笑った。いやちょろすぎんか。
「タンバリンとかあればもっと盛り上がりそう」
「ねこは『からおけねこ』なのでたんばりんはもちません。たんばりんは『たんばりんねこ』のしごとです。まらかすは『まらかすねこ』のしごとです。くびのうしろのぼたんできりかえることもできますが『からおけねこ』にもどせるのは24じかんごです」
「色々細かいし、けっこう不便だなあ」
「ぶんぎょうです。いっぴきにいろんなしごとをさせてしまっては、からだとこころがもちません」
「急に社会の闇に切り込むようなことを言うね」
からおけねこのセリフは、女性社員の歌唱に夢中な上司の耳には届かなかったようだ。
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