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「さーて、次は川村さんかな?」 「あ、はい」  私は隣の先輩からマイクを受け取る。こういう幅広い世代がいる場でのカラオケは初めてで少し緊張した。  何を歌おうか迷ったが、子供の頃に父親がよく歌っていた曲を入れる。父と部長は同じくらいの世代だろうと予想していたが、曲が始まると案の定「お、懐かしいな」と部長が言うのが聞こえた。  よかった、とひとまず胸をなでおろす。  あとは、一曲歌って次の人に回せばいい。  私に緊張はもうなかった。マイクのスイッチを入れる。 「おんてい19てん! ひょうげんりょく18てん! ろんぐとーん17てん! あんていせい20てん! りずむ18てん! びぶらーとぼーなすとくてん8てん! ごうけい99てん!」 「……………………」  音が無くなった。誰も声を出さなかった。もちろん私も。  からおけねこの声だけが場に響き渡る。 「すべてにおいて、かんぺきです。まるで、てんしのうたごえのようでした。こころをふるわされました。こころのなかで、なみだをながしてしまったほどです」  心の中で涙を流しているのは私だよ。  これは絶対にしてはいけないパターンじゃないか。部長の最高得点を大きく引き離すなんて絶対にしてはいけないパターンじゃないか。私も少しは社会がわかってきたつもりだ。  ああ、子供の頃から父親とよく一緒にカラオケに行っていたせいで上手くなりすぎた。 「……うん、すごいね」  ぱん、ぱん、と部長の乾いた拍手が鳴る。やめてください。  いたたまれなくなった私は助けを求めて清水先輩のほうを見たが、先輩はなぜか壁をじっと見つめていた。他のみんなも急に床や天井を見つめだす。みなさんの目には一体何が映ってるんですか?  誰も目を合わせてくれないので、私はからおけねこを見る。   「時を戻してください」 「ねこは『からおけねこ』なので、ときをもどすことはできません」 「時を戻すにはどうしたらいいですか」 「ときをもどすには『りせっとねこ』をよんでください」 「りせっとねこぉーーーーーーー!!!」  私は叫びながら、ねこの首のボタンを強く押し込んだ。 (了)
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