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遡ること半年前。
「もっと好きって言って欲しかった」
真っ暗な部屋の中で煌々と光を放つスマホ画面に浮き出る一文。
その文章を何度か読み直したあとで、私は小さなため息を吐き出す。
恋人に振られてしまった。しかも理由はこんなにも明解で、明らかに私にだけ非があるようだ。
今までの人生で全く同じことを理由に振られたことがある。よく考えたらこれで三人目だ。元恋人たちで裏で示し合わせでもしたのかと言うくらい、一言一句違わず別れの言葉が一緒というのもぞっとする。
「女かよ」
ついつい口から零れ落ちた声は自分が出せる中で一番ドスが効いていた。
私も今年で二十八歳になった。いわゆる世間一般で言うところのアラサーというやつだ。もうこれ以上恋愛で無駄な時間を使うのは本意ではなかった。少しくらいの悪態は許されるだろう。
LINEのトーク画面を操作し、イライラとした感情をぶつけるように元彼のアカウントをブロックする。
そもそも好きって言って欲しいなら、最初から愛情表現を多めにして欲しいって言ってくれ!
手に持っていたスマホをベッドの端に放り出して、自分もシングルベッドの上に寝転ぶ。自分しかいないアパートのワンルームは、あまりに静かで逆に私の苛立ちを助長させた。
こうなったらTwitterにでも元彼の愚痴をぶちまけてやろうかと、今までの言動を思い返す。暫く考えてから、そういえばもう既に元彼の顔がぼんやりとしか思い出せないことに気がついた。
あれ?そういえば最後に彼に会ったのっていつだっただろうか。
二週間、いや一ヶ月くらい前だったかもしれない。というより毎回会うのも一ヶ月に一度程度で、LINEだって会う前の必要最低限な内容のみだった事に気がついた。
そう考えると、この関係は果たして恋人たり得たものだったのだろうか。
真っ暗な部屋の天井を見つめていると、苛立ちは徐々に薄れていき覆い被さるような睡魔がやってきた。
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