第1章-エール・クォールズの朝-

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第1章-エール・クォールズの朝-

東暦(とうれき)2016年、1月6日、8時00分。 エール・クォールズは、自室の両開きの窓を勢い良く開いた。 開いた瞬間、神々しい朝日が目を突き刺し、冬の寒気が肌に張り付いた。 これで、まだ残っていた眠気がどこかへと一瞬で消えさる。 エールは深く息を吸い込み、一気に吐き出す。 体の内側も冷えてきて、まだ残っているかもしれない眠気にさらに追い打ちをかけた。 外の景色は既に一日の活動を開始していた。 エールの居室はこの5階建ての建物の3階にあり、高さ的には10メートルほどに位置している。 窓の桟に上半身を乗りだして下の景色を見てみる。 眼下の通りは、沢山の人たちでいっぱいだった。 子供から大人、女性も男性も関係なく行き交っていて、人の流れが自然と形成されている。 道の両側には所狭しと露店が列をなしており、自分の店が一番だとでも言わんばかりに商いに精を出していた。 露店の商品に目を奪われている人、人の波を掻きわけて急いでいる人、商売のための場所取りで言いあいをする人。 色んな種類の人がいることがこの通りを見るだけで分かった。 「ちょっと失礼!」 窓から上半身を乗り出していると左から活発な女性の声が聞こえた。 振り向くと『箒』に乗った長身の女性が背後に大荷物を携えて近づいてきていた。 エールは慌てて室内に体を引っ込める。 女性は窓を画郭(がかく)にして、左から右へとゆっくりとスライドしていく。 女性の背後の荷物は大きな箱に入って、図太い縄で箒とつながることで高度を維持していた。 「わるいねー」 去り際に一言だけ置いてって、画郭から消えてく女性。 荷物が完全に行ききったところで、もう一度顔を出して右側を見てみる。 先ほどの女性が後ろ手で振りながら、ゆっくり遠ざかっていくのが見えた。 今度は上方を見てみる。 こちらも人で溢れていた。 下の通りと違うのは、全員”何か”に乗っているということ。 先ほどの女性のように『箒』に乗っている人もいれば、複雑な紋様が書かれた『板』に乗っている人もいる。 他にも『絨毯(じゅうたん)』、『木馬』、『二輪』、『車』など、これも多種多様な存在があることが分かった。 高度を維持して立ち話ならぬ”浮き話”をしている人や、急ぐために他の人よりも高い高度を颯爽(さっそう)と飛び去っていく人、運悪く障害物に当たってしまい落ちそうになっている人。 そのどれもがエールにとっては全く目新しいものだった。 目を輝かせてひとしきり景色を堪能し、体を室内に戻して部屋中央まで進んでから感慨に(ふけ)る。 これから自分の周り現れるものは興味深いものばかりだと思うと、自然と口角が上がってしまう。 ワクワクが足から溜まって、フラストレーションが両手を震わし、口から爆発するように叫ぶ。 「はじまるぞ! 新しい朝が!」
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