第1章-エール・クォールズの朝-

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8時15分。 『我々の住む東方魔導教育機関アニマは世界最高峰の指導要領(しどうようりょう)を誇る魔法学園都市です』 星ほたるは校舎前の庭園にあるスクリーンに映し出される映像を眺めていた。 庭園中央の噴水頂上部を取り囲むように3面の巨大スクリーンが浮遊配置され、その中心にある水晶から映像が照射されている。 『総面積は1100キロ平方メートル、居住人口は600万人。その半数が学園に所属する学生で世界最大の学園規模となっています』 映されているのはこの学園のプロモーション映像だった。 毎年、新年の新学期になると1週間ほど放映されるのが慣例となっている。 『学園は年齢別に4部の校舎から構成されており、全てが100キロ平方メートルの敷地内に存在しております』 中等校から4年間在籍してるほたるにとっては既に見慣れたものになっていた。 学園全体が一望にできる上空から映像の壮大さに編入初日は心躍らせたことを思い出す。 「わあ、凄いなあ」 当時のほたると同じように心躍らされている声が聞こえた。 視線を向けるとスクリーンの真正面を陣取って見上げる金髪の男子がいる。 高等校の制服を着ているところから、恐らく今年から編入してきた学生だろう。 『4部の校舎には7歳から11歳までが初等校、12から14歳までが中等校、15から17歳までが高等校、18から20歳の学生は研究校という様に幅広い学生達が在籍していて』 ほたるは今年で16歳を迎えるので高等校の2年生となる。 高等校の学生の総在籍数は約2900人で一学年当たり1000人弱いることになる。 その規模のマンモス校に編入するには並みの成績では門前払いをくらうとされているが、ほたるの場合はそこには苦労することなく通過できたので、大人達が勉強を子供に対して強制させるための方便のように思えた。 『初等校では魔法を用いたレクリエーションや校内における魔法生物との触れ合いなどを通じて、体感的に魔法とは如何なるものかを学びます。中等校では私達の身近にある魔法や社会における位置付けを教養として持ち、生活魔法を中心に実技を取り入れていきます』 音声だけ聞き取っていた映像を視界に戻す。 各部における学校生活の情景が映っていた。 まだあどけなさをふんだんに見せる初等校の子供達の笑顔で画面が一杯になっている。 続いて中等校だ。 学生服は中等校から着用義務として学園から配布される。 高等校の女子用制服は白いワイシャツに赤銅(しゃくどう)色のリボンかネクタイ、ベージュ地かグレー地に臙脂色のライン入りセータと黒のブレザーが上には指定されている。 スカートは黒地に赤いチェック模様が細く入ったもので、ソックスに指定はないが学校推奨のものは黒のハイソックスにワンポイントの校章が入ったものとなっていたはずだ。 『高等校では魔法の成り立ちや基礎理論を習得、応用の複合魔法の実技など本格的な魔法授業が始まります。また2年生から分野別のゼミ所属が義務付けられており、研究校の学生と共同でより専門的な知識をつけていきます』 まだ太陽光で暖まりきっていない朝の風が庭園を吹き抜ける。 ほたるのオレンジ色のショートヘアが大きく(なび)いた。 全体が崩れないように風向きに合わせて顔を背ける。 風が止んだところで噴水方向に顔を戻す。 先ほどの金髪の学生は既にスクリーンの前にはいなかった。
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