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8時30分。
上等校2年生向けの学期初めのガイダンスが9時から行われる大教室にほたる達は来ていた。
大教室は扇形をしており最大収容1000人程度、教壇を中心点として波紋状に学生達の座席が配置されている。
右、中央、左と3ブロックに座席は分かれており、その中央中段ほどの座席にほたる達は着席していた。
ほたるは自前の眼鏡をかけて、赤色の分厚い冊子を読み込んでいる。
表紙には『魔法指導要領・上等校A部』と書かれていた。
ほたるの横でシクシクと泣きながらプリントに希望時間割を記入しているキアラも同様の冊子を持っている。
先ほどの大量の肉まんの袋はキアラのすぐ隣に置いてあった。
左ブロックの座席の最下段に見覚えのある金髪の頭が見える。
噴水前で『アニマ』のプロモーション映像に感激していた編入生と思われる少年だった。
彼もほたる達と同様の赤色の冊子を机に並べていた。
(ふーん、編入生でA部にクラス分けされるなんて、よっぽど優秀なのねあの男子)
ほたるは指導要領の学期ごとのクラス分けの基準についてのページを開いて、内容を確認する。
(高等校では学期毎に学生を学年内で3部のクラスに分けることで、より効率的な授業進行を目指している。クラス分けの基準は以下の通り、前年度の総合的な成績取得率が80%以上の者をA部、60%以上の者をB部、それ以下の者をC部に配属するものとする※他特例については別頁を参照のこと)
要は成績の良い人達は良い人達で集めて、悪い人達は悪い人達で纏めておけば色々都合いいよね、というシステムである。
ほたるが知りたいのはその下の一文だった。
(編入者においては合格者の上位1割かつ試験での得点率が90%以上の者をA部、それ以外の者はB部とする)
確か、アニマの高等校への編入者は毎年1学年に50人ほどになると聞いたことがあったほたる。
そして編入試験は基本的に在学者が年度末に受ける学期末試験と同様のものが行われる。
(去年の学期末試験を受けた在学者で総合9割取れたのは確か5人だけ、つまり編入者でA部に分けられるってことは学年でトップ5の成績優秀者ってことね……)
学期末の試験に関しては上位100名の名前と得点率が公表される。
その中で90%以上を獲得していたのは5名だけであり、ほたる自身の順位は6位であったことはまだ記憶に新しい。
顔を上げてもう一度前方の少年に目を向けてみる。
さらさらな金髪の頭に華奢ほどではないにして痩身のその体格にはきっちり着た制服がフィットしている。
「たしかに、まじめそうに見えるわねえ……」
考えていたことが何の気なしに口から出てしまったほたる。
「ううう? なにがだあ?」
噴水前でのほたるの形相がトラウマとなっていまだに怯えているキアラが反応した。
ほたるは辺りを平静を装って見回して、まだ周囲に学生が集まっていないことを確認する。
「なんでもないわよ……。それより時間割できたの?」
話の対象をそらそうと本来の目的であるキアラの時間割に焦点を当てる。
「できたあ……、ご確認をおねげえしますう……」
ははあっ、とひれ伏すように記入したプリントをほたるに捧げるキアラ。
自分を卑下したような様子になったキアラを見て、少しばかりやりすぎたか、とほたるは思った。
受け取った時間割表に目を通していく。
ほぼほぼ自分と同じであることを確認して頷く。
「うん、オッケーね。実技系はアンタ得意だから1人で大丈夫でしょう? とにかく筆記系の授業は私と一緒にしておけばそんなに酷いことにはならないでしょう」
「ほたる様と一緒だなんて恐れ多いでごぜえますううう、あの形相はまさに鬼神のごとし、あっしみたいな雑魚畜生にはもったいねえでごぜえやすううう」
まるで別人が乗り移ったかのように口調までも変わるキアラを見て引き攣るほたる。
以前、自分の故郷に伝わる時代劇の映像をキアラに見せたことを思い出した。
その時のインスピレーションが残ってたのか。
「頼むから切腹とかやりださないでよ……?」
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