第1章-エール・クォールズの朝-

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キアラは1分ほどで目を覚まし、女の子なんだから下品な言葉を多用してはいけません、と説教を受けるとほたるの横で撫すくれていた。 大教室には続々と学生達が入室してきていた。 4列ほど後方には男子と女子の混合した10人ほどのグループがガヤガヤと騒いでいた。 「俺はアルフォード・ギアってんだ。長いからアルって縮めた呼びで呼んでくれ。よろしくな」 さっきは悪かったな、とアルフォードと名乗った男子学生がキアラに気さくに声をかけた。 苦笑いで片手で謝罪の形を作り、わりいわりい、と頭を下げている。 「まさかあんな勘違いされるとは思ってなくってよ、軽いスキンシップのつもりだったんだよ」 「こっちこそ、この子が変なことを言ってしまって。ごめんなさい、アル君」 無視しているキアラの代わりにほたるが受け取って返答する。 アンタも反応しなさい、とでも言うようにキアラの頭をゴシゴシとなでる。 「……キアラ・マクドゥ。……ゴメンナサイ」 ほたるの急かしに反応を返すように片言の棒読みで、謝罪の意思はないアピールをしつつ謝るキアラ。 そんなキアラの様子を見て、ほたるとアルは顔を見合わせて微笑む。 2人とも、なんだか小動物を見てる気分になっていた。 「よろしく。私は」 「星ほたる、だろ? 成績優秀者なんだから知ってるさ?」 名乗る前に自分の名前を知られていることに少し違和感を感じた。 おそらく公表された成績順位を見たのだろうが、あまり気持ちの良いものではない。 「ところでさっきの話に戻るんだが」 と、アル。 『肉まんゼミ』の話かもと勘繰ったのか僅かにキアラがピクッと動いたのを感じた。 「お願いだから『肉まんゼミ』の話は蒸し返さないで」 隣で塞ぎ込んでる少女の再暴走を予期したほたるが先手を打つ。 その言葉で自身の反応が監視されていると気付いたのか、小動物の如き反応速度で動きがピタッと止まった。 「ダハハッ! 肉まんだけに蒸さないでってか!」 アルの軽い冗談に再びピクッと小動物が動き出す。 ジロッとほたるがアルを睨みつけて次の言葉を抑制させた。 「い、いや、その話じゃなくてゼミの話だよ……」 ほたるの気迫に気圧されたのか若干のたじろぎを見せるアル、少しずつ話を展開していく。 「2人はゼミの志望はどこにするんだ?」 「第一志望? 私は『桜ゼミ』にするつもりだけど」 「おー、流石だねえ。マクドゥ、お前はどうするんだ?」 「……キアラ、いつでもほたると一緒だ」 ボソッとキアラが呟く。 その言い方にアルは興味深そうにほたるに問いかける。 「随分と懐かれてるんだな……?」 「中等校の頃から何かと一緒ごとが多いから、ほとんど姉妹みたいな感じなのよ。2人ともここ出身じゃないしね」 なるほどな、と得心がいったかのように頷くアル。 ほたるもキアラもお互いがお互いにとって必要な存在なのかもなと思った。 「ちなみにあなたはどこ志望なの? やっぱり桜ゼミ?」 「まあ御察しの通りだな。というかここにいる学生の半数は第一志望が桜ゼミなんじゃねえかな?」 既に1000人の学生を収容できる大教室の席が埋まりつつあった。 高等校の在籍する学生は1000人弱なのでほたる達は500人近くの学生と志望が被ることになる。 「まあ、そうよね。さすがは桜赤人(さくらあかひと)先生と言ったとこかしら」 ほたるは指導要領のゼミ紹介のページを開いてみる。 概要説明と共に1枚の写真が掲載されている。 桜赤人と言う名前が隣に明記されていて、赤髪の若い綺麗な顔立ちの男性教師が写っていた。 「26歳という若さにして、世界最高峰の魔法学校であるアニマのゼミ持ちの教員。そして何より、世界の魔法使いの頂点を統べる『三賢人(さんけんじん)』の『カスパール』様のひ孫と来たもんだ」 後ろのアルも同様に冊子を眺めながら言った。 おそらくはほたると同じページを開いているだろう。 「桜ゼミ所属というだけで、その先の就職や研究校への進学も約束されているっていうくらいだしね」 「ああ。しかも募集要項には特に条件は書かれてないとなれば誰でも志望だけは出すだろうよ」 と、アルはそこまで言ってほたるに顔を近づけ、周りに聞こえないように囁く。 「そこで折り入ってお前達に相談がある」
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