ほったて小屋の男

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ほったて小屋の男

強大な始祖の魔術師達によって作られた、10の大きな魔法都市の中で、この第3都市はとりわけ広大な空間を誇っていた。魔術師の人口も、働き口も、他の都市よりはるかに多く、ゆえに学歴社会、格差社会の代表格だった。 魔術師界には、古くから、実に簡単な掟がひとつだけある。それは、「力のあるものは中で働き、ないものは外で働くこと」というものだ。中というのは、勿論この魔法都市界の中でという意味で、外というのは、いわゆる下界、つまり魔法のない世界のことだ。 魔術師は生まれるのではなく発源するもので、空間と微生物の変異から、ぽっと存在する。この点は魔女と違う。魔女は必ず生まれるものであり、ゆえに人に近く、人と共に生きることができ、人から存在を悟らせないたけにすぐれる。それに比べて魔術師は、変異であるせいで能力にかなりな差が出る。できるものはとことんできるが、できないものは何もできない。ただ、勤勉さだけはほとんど皆が持ち合わせている。存在が無に帰すまで、この世のあらゆることを学び尽くす。だから魔術師界は、高度な発展と発達を繰り広げられていた。下界と大きく異なる空間ゆえに、下界とは合間見えぬよう、隠されてきたのだった。 さて、この最も簡単かつ当然の基本的な魔術師界の掟に、スレスレの生き方をしている男が1人いる。その男は、学力も、魔力も、勤勉さも全て申し分ないほど持ち合わせていたが、演劇への度を越すほどの執着と情熱のせいで変人扱いされ、魔法都市の中心地から弾き出されていた。下界にほど近い草原の小さなほったて小屋で、絶滅危惧種の花を育てて売ることで生計をたてながら、劇作家を名乗っていた。 皆は彼を、変わり者のハットと呼んでいた。
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